決意━misumi━
腹が立った。
何も知らない癖に、何も分からない癖に知ったような事を言うあいつ―良佳―に。
―本当は図星だったのかもしれない。
そう思う自分にも腹が立つ。
哀しいとか寂しいなんて、思った事がない…と言い切れないことに嫌気がさした。
―そんな感情、とうに失ったと思っていたのにな。
帰路を辿りながら鬱鬱とした気分を引きずる。春の夜はまだ少し肌寒い。
八つ当たりにも似た感情を直接メールへと叩きこんだ事に、罪悪感が無いとは言わない。それでも、彼女の中に作られる“深澄”があまりにも現実の自分とかけ離れていくのが許せなかった。
―うんざりする。
何故、人は人に期待など持つのだろう。
いつしかその期待は膨れ上がり、勝手に終わりを迎える。“失望”と言う名の。
そんなことが分からない程、俺は子供じゃない。
期待なんて持たない方が賢明だ。
―だから相手が誰であろうと期待はしない。
誰の事も信じない。
その方が生きていく上で賢明だと思えるから、そうしてきた。
信じるよりも、疑うことの方が絶対に必要だと…。
―それを“寂しい”なんていうのか?
理解できない相手に、これ以上煩わされるのは御免だ。
今度こそ“終わり”にしよう――。
返信を待つ間、深澄はふと目についた「児童公園」の奥へと歩みを進める。昼間は親子連れや子供たちで賑わうこの場所も、今はひっそりと鳴りを潜め静寂を保っていた。それが妙に心地いい。
いつだったか幼い頃に一度だけ、この場所に来た事がある。
両親に連れられて行った“学会”の帰り道。楽しそうな子供たちの笑い声に引き寄せられるように俺は走りだしていた。不意に滑り台の前まできて同じくらいの年の子に出会う。
声をかける事も出来ずに黙っていると、彼はこう言った。
「キミもやる?」
その一言に驚いたのは自分。こんな風に誰にでも笑顔を向けられる彼が眩しくて、その答えを持ち合わせていない自分がとてもちっぽけに思えた。
今にしてみれば当たり前なのだが――当時の俺は、こんな風に誰かを誘って遊ぶ事も笑いかける事もなかった――とても“寂しくて”涙が出たのを覚えている。
勿論、その子と遊んだ記憶はない。
すぐに母親に見つかり、その場を後にせざるを得なかった。
―なんで、今更…こんなこと。
どうして思い出したのか。
自分に問いかけてみても、答えは出ない。ただ言える事は、彼女の一言がとても胸に引っかかっているという事…。
この感情をなんて呼ぶのか。先程までは確かに“怒り”だったはずなのに、今はその色を変え始めているように思う。
―貴方は幸せですか…?
不意に空を見つめ呟いてみる。
そこには夜毎姿を変える“月”の姿だけがあり、深澄は柄にもなく笑いたくなる。
それは、とても寂しい笑顔だった―――。
久しぶりの更新です><
みっちゃん大分難しい^^;
最近分からなくなりつつある子です…。
それでも物語は進みます。