寂しさ━misumi━
変わり映えのしない毎日。
ただ過ぎていくだけの時間に飽き飽きする。
昼食を食べ終え、彼は学校内の裏庭へと足を進めた。最近の日課…というよりはお気に入りになりつつある場所。風が通る木々の木漏れ日が落ちる草の上に、彼は座る。手には参考書と、精神学系の本。
午後の始業までのゆっくりとした時間を人に触れられない静かな場所で、ただ本を読み過ごす。これは変わらない日常の中で、貴重な時間だと言っていいかもしれない。
優しい春風が、木々の木漏れ日が深澄の髪を揺らし、影を落とす。そこには何の音もなくて、あるのはただ自分だけ。
不思議な気分だ…。
世界は争いや破壊、悲しみに溢れているのに、それさえもここにはない。
戦争なんてとうに過ぎた出来事だが、今座っているこの場所にもきっと血は流れていたし、沢山の悲鳴や悲しみの記憶を大地は残しているはずなのに、今は優しい色と光に包まれる。
そっと目を閉じて、思いを馳せた。
もし、その時分に生きていたのなら自分は必死に生きたのだろうか。
そんな事を考えて、そのクダラナサに気づく。“もし”はありえないのだ。
“もし”ってなんだよ…。
過去に思いを馳せていても、未来が見えるわけじゃない。過去が変わるわけでもない。
そんな変えようのないモノに意識を傾けるくらいならば、これからのクダラナイ自分の将来のことを考えた方が“利口”というものだろうか。
自嘲の笑みを刻みながら、深澄はようやく手にしていた本を開いた。
ぱらぱらと本を捲り、栞をはさんだ読みかけの頁で手を止める。
歪んでいる自分が「精神学」を読んで何になるのだろう…。読んだ処で自分は変わらないと思うし、また人に偉そうに説くつもりもない。ただの興味に過ぎないのだ。それでも…。
何もしないよりはマシだろ…。
知識は少ないより、多い方がいい。
その方がモノの見方や、人間性も広がると父親に言われた事がある。その言葉を信じているわけではないが、深澄自身も知識を身につけることは嫌いじゃない。たとえそれが日常に必要のない“雑学”だとしても、ないよりはある方がいいと思う。自分以外の誰かを知るためにも、その許容量を広げるためにも。多くを知ることは無駄ではない。
人を理解するつもりも無いくせに。
無表情のまま、彼は心の中で自分に悪態をつく。
他人を理解するつもりはない。逆に自分を理解してほしいとも思わない。所詮、他人なのだ。理解するにも限界があるし、理解したところで何になるのか。ずっとそう思ってきた。虚ろな目を本に向けたまま、深澄は自分の中のドロドロとした感情が出てこないように、自分を上手く制御する。“優等生”を続けるために…。
「…っ!?」
不意に胸ポケットの携帯電話が揺れ驚きに短く声を漏らす。
マナーモードにしてあるが、普段なら揺れる事のない時間に戸惑う。
誰だ…?
徐に携帯電話を取り出し、その画面を確認する。
――新着メール 1件―― 画面にはメールの表示と共に、その言葉が映し出されていた。
溜息と共にそのメールを開く。また悪質な悪戯か、クダラナイ広告メールだろう…。そう思った。それなのに…。
「…yoshi…ka…?」
アドレスを確認しなくても、名前を見なくても、すぐに彼女からだと分かる。覚えのある不思議な“詩”の書き出し…。
『一人は寂しいですか?
一人は哀しいですか?
私はそうは思いません。
少なくとも、今まではそうは思わなかった。
一人でいる事が当たり前で、“独り”であることに気づかなかった。
独りは寂しいです。
独りは哀しいです。
貴方が居る事を知ったから、
私は“独り”に気づいた。
だから、今、とても哀しい。
貴方は平気ですか?
貴方は“独り”ではないですか?
独りに慣れてはいけない…
独りであることは哀しいのです。
心が、涙を流すのです。
どうか
貴方の言葉を、私に下さい―――
七瀬 良佳 』
「名前…」
詩の最後に書かれた名前―七瀬 良佳―…「yoshika」ではなく、彼女は本名を載せてきた。
謎かけの様な、一方的な言葉と共に…。
俺の気持ちは無視かよ…。
普段なら切って捨てるくらい不躾な内容だ……返信どころか、その場でメールを削除していただろう。それなのに、何故だか削除しようとは思わなかった。
面白い…。
好戦的な笑みを浮かべ深澄は指を動かす。
爽やかな風の吹く昼下がり、その風景とは似合わない表情を浮かべた彼は、彼女に返信する。
これが二度目のメールの再開だった…。
ようやくメール再開です!
それにしても裏庭とはいえ、深澄「百面相」ですよ(-_-;)!?
傍から見たら普通に怪しい人ですよ?
どうしたもんでしょうね…orz
そろそろ本格的に話が動いてくれるといいなぁ~…と思ってます^^
二人とも頑張れ!!(←何を!?)
次回更新は早ければ今月中には…と言う感じです^^;
不定期に戻らないように、頑張ります!