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きっかけ━misumi━


「じゃあ、崎本君。あと頼むね」

教師にそう言われ、深澄はにっこりと微笑んで見せる。

「分かりました」

相槌を返すと、教師は満足したように「じゃあ」と軽く手を上げて去っていく。

教師が完全に視界からいなくなったのを確認すると、深澄は仕方なく実験準備室へと入る。

明日一年生の何クラスかに実験の予定が入っているらしく、深澄はその準備をするべく実験準備室(ここ)に来た。無論、彼は一年生ではない。

帰りに職員室へ寄ったのが運の尽きだったようだ。馴染みの教師に捕まった。

「大体、実験準備室なんかに生徒を簡単に入れるんじゃねえよ」

ここには薬品や、機材、蛙の標本などが置かれている。勿論、危険な薬品も奥の扉の先に安置されている事を深澄は知っていた。

「少しは疑えよ・・・」


━どうしても外せない予定があるんだ、頼むよ。崎本なら安心だろ?━


何が「安心」なのだろうか。

俺が「優等生」だから?

そもそも「優等生」って何なんだ?

教師や大人の言う事を聞いて、従って、反抗しなければ「優等生」?

それとも物分かりが良ければなのか。

深澄は自分の考えている事の「愚かさ」に、自嘲の笑みを漏らす。

「くだらね・・・」

どちらにしろ大人にとって「都合のいい子供」なら、きっと誰でも良かったのだろう。そう思う。

例えばここにいるのが「深澄(オレ)」じゃなくても、大人は困らない。世の中はそういうモノ。

そこに変な期待とか、望みを持つ奴が馬鹿を見る。

大人に期待なんかしない。世の中にも。期待なんかしたところで「裏切られる」のは見えている。

未来にも期待はない。このまま親の言いなりになって大学へ行って、お医者様になって・・・将来(さき)にあるのは決められたクダラナイ大人への道。

「・・・・」

別になりたいものはない。したいことも。無気力だと言われればその通りだし、現に人形の自分は「優等生」の自分を演じ続けているだけ。


無言で実験の準備を始める。一人でいるとクダラナイ事ばかりが脳内に巡りだす。

ドロドロとした感情を抑え、手際良くビーカーを並べる。続いて薬品の棚へと手を伸ばそうとして、恨めしそうな蛙と目が合う。標本にされ、(カレ)は悲しくなかったのだろうか。

「勝手な生き物だよ・・・人間なんて」

蛙に聞こえるように、深澄は呟く。彼は人間が好きではなかった。

人間ほど高慢で愚かで救いようのない生き物はいない。深澄はそう思っていた。

蛙から返答が返ってくるわけもなく、溜息一つ漏らして目を逸らすと目的のものを手に取る。明日使われる薬品は殆ど害のないモノのようで、見える棚の一番前に陳列されていた。

「・・・これか」

名前を確かめ、瓶ごとカゴの中に入れる。どうせこの部屋には鍵がかけられるが、何かあると厄介だ・・・そう思い近くに置いてあった布を手に取り瓶に巻く。さすがに教師なら気づくだろうし、暗がりではこれが何か分からない。余りにも簡単な処置だが、危険性の薄い薬品ならこれで十分だろう。

気づくと西日も沈みかけ、部屋の中は暗い。ふと時計に目をやると16時半を過ぎている。冬至は過ぎたとはいえ、17時を過ぎれば真っ暗だし、何より寒い。

「・・・帰るか」

一通りの準備は終えたし、あとは明日教師自身が来てからでも揃えられるようなモノだ。怠慢させずにやって頂こう。そう決めて深澄は準備室を出る。渡されていた鍵でしっかりと施錠し、確認してから歩きだす。深澄は「確認」を怠らない。自分の行動に他者から文句をつけられるのを嫌う彼は、完璧主義を掲げていた。

ブー ブー

準備室を背に歩き出すと携帯電話が鳴る。学校内では「マナーモード」が基本。

胸ポケットに入れていた携帯を取り出し、出先を確認しようとして眉を顰める。

「誰だ?」

知らないアドレス。深澄は親しいモノや、連絡を取る必要があるモノにしか情報を教えていない。

教えた人間の情報もこの携帯には登録されているから、必ず「名前」で出る筈だった。それがない。

訝しく思いながら深澄は携帯電話を開いた。






深澄のもとに届いたメール。

果たして誰からだったのでしょうか。



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