表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/113

桜━misumi━


 四月になり、あちこちに春の訪れを感じるようになった頃、彼も受験生になっていた。

 春は嫌いじゃない。

 陽気は暖かく過ごしやすいし、毎年通学路にある桜並木が満開になるのを見るのは楽しい。欲を言えば「虫」が増える事だけがいただけないが…。


(虫…好きじゃないんだよ)


 いつもの通学路を辿り、彼は眉を顰めた。

 この時期は小さな蠅のようなものが眼前をちらちら飛んでいるのをよく目にする。口を開ければ食べてしまいそうだし、自転車に乗ろうものなら容赦なく目の中に飛び込んでくる。なんとも恐ろしい季節だ。

そんなくだらない事に気を取られながらも、深澄は最寄り駅へとつく。


 ポケットから定期を取り出し改札を抜けると、時間を確かめるために携帯電話を取りだした。

 彼は視力があまり良くない。

 日常生活に不便はないが、駅に用意されている掛け時計の文字盤は少し翳んで見える。

 目を細めれば読み取れない事はない。だが、朝の混雑した時間帯にわざわざ立ち止まるのも如何なものかと思うので極力携帯で確認するようにしていた。


(七時五分…少し早いか…)


 いつもより少し早い電車を待ち、彼は壁に寄りかかる。

 口元に携帯電話を持ったままの手をあて、どこか物思いにふけったような表情で目を伏せていると、儚げな青少年に見えなくもない。もっとも本人は他人からどう見えるかなど気にした事もないのだろうが…。


 ホームに電車が入って来る。

 そのアナウンスと共に構内は一際賑わいを見せると、老若男女問わずホームには人が溢れた。


(今日もご苦労な事だ…)


 我先にと電車に乗り込む人々。

 深澄自身もその人並みに流されるままに車内に乗り込むと、常になったipodを取り出し耳に当てる。  今日の気分は洋楽。言葉の意味など考えなくてもいいような、そんな歌が聴きたかった。

 耳に聞こえてくるのが人の話し声から歌に代わる頃、深澄は徐に携帯を見つめる。

 

 あれからメールは一度も来ていない。

 自分で臨んだ結末のはずなのに、何処か物足りないような…そんな気がしていた。

 yoshika(あいつ)はもっと根性のある(・・・・・)人間だと勝手に期待していたのかもしれないが、もっと……楽しませてくれるのだろうと思っていた。

 彼女なら自分を変えてくれるのではないか、そんな予感がしたのに…。


( 買被り過ぎだ)


 彼女は「怖い」と言った。

 人を信じる事が、知ることが。

 

 メールをやめればスッキリすると思った。

 それなのに、スッキリするどころか「苛々」に似た何か(・・)が静かに積もっていくような…そんな感覚だった。


 電車を降り、不意に溜息を洩らす。

 日常は余りにも退屈でくだらなくて、そして虚しい。


 ━貴方は、幸せですか…━


 どこかから、彼女の言葉が聞こえた気がする…。

 桜の花びらが風に舞い散る朝、深澄はただ青く果てしない空を見上げていた。


こちらも新章突入です!

相変わらずな深澄。でも彼の中に確かに残る言葉もある…。


果たして二人は今後どうなるのか!?

乞うご期待です^^


☆次回更新予定は25日です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ