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桜━yoshika━

 あれからメールは来ていない。

 やっぱり迷惑(・・)だったのだろうか、そう思うとメールを送る事さえ出来なくなった…。


 四月。

 季節は巡り、とうとう高校における最高学年へと移り変わると「進学」や「就職」といった言葉もより一層身近なものへ感じられた。

 無機質な教室の自分の席にも、暖かく柔らかな春の風と桜の薄紅色の花弁が舞い込み、うだうだと考え続けていた思いにも色を付けていく。

 新学期になりクラス替えが行われると、自然と暇つぶし(イジメ)にも付き合わなくて済むようになる。だからと言って何かが変わるわけでもなく、良佳は相変わらず薄い影のようなものを纏ってクラスの中の忘れられた(・・・・・)存在として、毎日を静かに過ごしていた。


「七瀬さん」

 不意に声をかけられ良佳は机に伏せていた顔を上げると、そこには見覚えのない顔が立っていた。

「なに?」

「あの…お昼…」

 真っ直ぐに目を見て話せないのは、彼女も同じ傷跡(イジメ)の記憶を持っているからだろうか。おどおどと自信無下げな彼女は「藤好 千沙(ふじよし ちさ)」と言った。

「…?」

「一緒に…」

 きつく握られた両の掌にはお弁当が入っているであろう巾着があり、それを見てようやくポツリ、ポツリと呟く彼女の言葉の意味を理解する。胸が暖かくなった…。

「昼、食べないから…」

「あっ…ごめんなさい…」

 彼女のかけてくれた一言が嬉しいのに、初めての経験に戸惑う。結局返せたのは愛想のない冷たい言葉。パタパタと走り去る千沙の後姿をただ見つめることしか出来なくて、良佳はフッと目を伏せた。

 心の中でごめん(・・・)と千沙に謝ると、携帯電話を開く。変わり映えのしない月を写した待ち受けが出迎えると、良佳はメール画面を開く。哀しい時、辛い時、寂しい時…どうしようもなく心が不安定になるとメールを打つ。丁度今のように…。

 送ることは出来ないけれど、それでも気が楽になる気がした。


 風に舞う花弁を見つめながら良佳は一人呟く…。


━貴方は、幸せですか…━


 いつでも自分自身に問いかける言葉。彼にも問いかけた言葉。

 ━misumi(カレ)━は、今頃何をしているのだろう。何を考えているだろう。幸せだろうか…。

 またそんな事を考える自分に、頭を振る。

 メールのやり取りをしなくなって…出来なくなって、何度も何度も彼の事を考えた。あの時、もっと違う事を言っていたなら…そう考えると哀しくなった。

「仕方ないのにね…」

 過去の事を何度悔んでも、その選択が変わることはない。正しくても、間違いでも、その選択は取り消せないし最善なんてないとさえ思う。

 今はただ、自分のこれからを考えるしかない。

 進学にしろ、就職にしろ、やるべきことはたくさんあるのだ。溜息を一つ吐いて携帯を閉じると、良佳はまた机に伏せる。


 春という始まりの季節を感じながら、良佳はただ目を閉じた…。



前回更新から時間が少し空いてしまったので、新章突入という感じで物語りも「春」を迎えました。

メールは途切れていますが、話はまだまだ続きます。


☆次回更新は15日頃を予定しています。

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