涙━misumi━
帰宅直後、また携帯が揺れる。メールだ。
不意に溜息をつくと、彼は玄関先で靴を脱ぎ徐にポケットから紺色の無機質なボディを取り出す。
(さて…どんな内容か…)
本当は半分くらい興味を無くしかけている。
それでもメールを返したのは、苛々を募らせたくないからだと思う。ここで返信もせず、自分が苛々するのは癪にさわる。それに返信せずともまたメールが送られてくるのなら、その時こそ「迷惑メール」になるだろう。それならいっそ…。
(凄いきつい返信でもした方が、気が晴れるだろ…)
相手がもう「メール」を送りたくなくなるくらい、自分にメールしたことを後悔するくらい傷つけて、全てを終わりにしたい。そう思った。別にこのメールの相手を…「yoshika」を憎んだつもりはない。きっと「可哀想な人」なんだろうと憐みさえ抱く。だけど。
深澄は暗い階段を登りながら、その返信を開いた…。
『misumi、
突然「会いたい」なんて言ってごめんなさい。
貴方を困らせると分かっていたけど、言わずにいれなかった。』
書き出しは「謝罪」、画面を下にスクロールさせながらその続きを読む。
『誤解しないで欲しい。
貴方とあって何かしたいとか、何かして欲しいとか
そういうつもりはなかった。
ただ…
ただ、貴方と直接会ってみたかった。
貴方を、
知りたいと思った。 』
脈絡のない文。会ってどうすると言うのだろう…俺を知ってどうすると言うんだ。深澄の中が苛々で埋め尽くされていく…。言いようのない気持ち。
(クダラナイ…)
やはりひどいメールの返信で、この関係を終わりにした方が良いのかも知れない。そう思いながら、深澄は更に続く長文メールに目を走らせる。そこには意外な文字が並んでいた。
『本当は、怖い。』
行間が空く。空白の白い画面を追って、更に下へと画面を送る。
『自分を知られるのも、貴方を信じる事も。凄く怖い。』
また理解不能な言葉が並ぶ。怖いなら関わらなければいい。違うのだろうか。
『でも、貴方は違うから。
私の周りの人たちとは違う。だから…』
何が違うというのだろう。
同じ人間、少なくとも同じ世界、同じ日本に生きるただの「男子高校生」なのだが…。
彼女━yoshika━の言いたい事が分からない。彼女は自分に何を期待して、望んでいるのだろうか。
最後の一行、ようやく終わりを告げた長い文章に溜息がでる。
━メールを送っても良いですか…━
それが最後の一言だった。
彼女は敢えて「メールを続けて」ではなく「送って」と書いて来た。これは利口な選択だと言ってもいい。
彼女は返信を強制していない。
今まで通り、返信がなくても構わないと言う意思表示なのか…それとも単に気を遣っての文章なのかは分からないが、これは深澄好みの言い回しだった。
時々ハッとさせられることがある。今のように。
(ただの馬鹿な女じゃないんだな…)
ちょっとだけ見直して、それから返信に迷う。
このまま返さなければ、彼女はそれでも本当にメールを送ってくるのだろうか。
少しだけ興味が湧いた。
パタン…携帯電話を閉じ彼は壁に寄りかかる。
自室内はとても静かで、落ち着いていた。このまま…。
このまま返事は返さない。
彼女がどう出るのか、その行く末を見守らせて貰おう。そう思って、少しだけ表情を緩める。
一つ、将来への楽しみが出来た……そんな夜だった。
どうも、作者です^^
基本的に「深澄」は性格が悪いな…としみじみ感じています(^_^;)
まぁ…歪んでるんだから仕方ないけども…。
そんな感じで、またまたメールのやり取りが止まりました。
正直に言えば、この展開は予想外です(笑)!!
…それでも、頑張ります(/_;)