新月━misumi━
新月の夜。
彼女のいう「月さえ眠る夜」とは、今日の事をさしているのだろうか。それとも…。
帰路を辿りながら、深澄は一人そんな事を考えていた。
時刻は7時を回ろうとしている。人通りも多くはない。冷たくなる指先を温める為にコートのポケットに手を入れると、不意にその振動に気づく。携帯電話が揺れていた。
(もう?…意外に早いな…)
予想外の返信に、深澄は少し眉を顰め画面を開く。
━新着メール 1件━
画面には確かにメールが来たことを告げる表示が出ている。
歩きながら右手で器用にメールを開くと、そこには期待外れな言葉が書かれていた。
━会いたい…━
深澄が期待していない言葉。
(何だ…他の女と変わらないのか…)
伏し目がちにそんなことを思い、返信もせずに携帯を閉じる。面白くない内容に、返事を返すことさえ億劫になると、そのままコートの中へと閉まってしまった。
溜息が出る。他の女と違うからこそ興味が持てたというのに…これでは何も変わらない。
残念な気持ち半分、不快な気持ち半分…また苛々が募りそうだ。
新月の夜、彼は一人空を見上げる。
月のない真っ暗な空には星だけが瞬き、まるでその音が聞こえてきそうな錯覚さえ覚える。
━ 会いたい…
会って……貴方と話がしたい… ━
不意にメールの言葉が頭をよぎった。
彼女は、どういう気持ちでこの言葉を送ったのだろうか。そこに思いを馳せる。
(会いたい……か…)
正直、会いたいとは思わない。思えない。
会って話したところで何かがあるとも考えられない。でも、それでも彼女は「会う」事に意義を見出している。不思議だと思った。
(こうも、違うものなのか…)
立ち止まったまま、深澄は動かない。
その瞳は戸惑いに揺れ、そっと伏せられた。
「………」
もう一度携帯を取り出すと彼は徐にメール画面を開き、ボタンを押す。
そこに迷いはもうない。
『今は会えない。
会いたくない。
でも、yohsika
君の言葉の真意を
知りたいとは思う。
misumi 』
何とも歯切れの悪い中途半端な内容だと自分でも思う。
でも、これが今送れる精一杯の返信。素直な気持ち。
いつか、会いたいと思う日が来るのだろうか…そう思いながらも深澄はメールを送った。
月の無い夜…。
交差しない二人の思いを、星だけが見守っていた…。
危うく、また降り出しに戻るかと思いました…(^_^;)
「会いたくない」…それは彼の正直な気持ちです。
ここからどうやって、二人は会う事になるのでしょうか…。
本当に交差しない二人です。