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空白━yoshika━


 更なる返信を待ちわびて、いつの間にか日が暮れていた事に気づく。


(もう、こんな時間・・・)


 暮れかかる紫の空を見て、良佳は小さく溜息を吐いた。携帯を握りしめたまま緩く自分の体を抱く。

 何度携帯を開いても、センターにメールの問い合わせをしても・・・そこに応えはない。急に見放されてしまったような気がして、何故だか胸が押し潰されたかのように傷む。この痛みの正体を、良佳は知らない。


「呆れられたのかな・・・・」


 自分が返した「理由」が気にいらなかったのかも知れない。呆れられたのかも知れない。

 来ない返信を待つ間、何度も何度もそんな言葉が頭の中を回っていた。


「こんなの・・・」


 こんな風に「何か」を待つのは嫌だった。

 期待と、不安と・・・押し潰されそうになってはまた溜息を吐く。その繰り返し。

 待ち続けても、来ない事には慣れている・・・。ずっと、そうだったように。

 5歳で父親が蒸発し、母と二人で暮らした2年間。そして、その後の8年間・・・。

 来るはずもない「父親」を待ち、振り向いてはくれない「母親」を見つめ、そして「温もり」を「愛情」をくれる人を求め続けた・・・。それでも、何も変わらなかった。

 

 本当の事を言えば、もう「諦めたい」。

 これ以上、信じ続けるのは辛くて、苦しくて・・・・誰かが気づいてくれるなんて、そんな淡い期待なんて捨ててしまいたかった。いっそ、誰かが否定してくれたら・・そう思うことだってある。

 

 ・・・・それでも、信じ続けるしかなかった。


 今、全てを「諦めて」しまったら、良佳(わたし)には何も残らない。

 諦める事も、「怖かった」。


「こんなんじゃ、前にも後ろにも進めないよ・・・」


 自嘲気味た笑みを刻み、良佳は顔を伏せる。

 酷く息苦しくて・・・今まで「都会(まち)」の中では上手く息が出来なかった。

 まるで「水から出された金魚」みたいだと思う。必死に身体を動かしてもがいてみても、水に戻れる事はなくて、やがてそのまま力尽きてしまう。・・・私も「死」んでしまうのではないだろうか。


「そんな訳ないか」


 行きすぎた考えに、良佳は小さくかぶりを振った。

 そっと立ち上がると、カーテンを引く。部屋がより一層暗闇に包まれた。

 電気を点けずに、そのまま部屋を後にする。これ以上待ち続けるのは、気分的にきつい。

 他の事でもして気を紛らわせなければ、本当に変になりそうだった。

 

 階段を下りて、台所に入る。

 家の中は古臭い作りで、お世辞にも「キッチン」とは呼べない。せいぜいが「台所」だ。

 誰もいない台所は、ひんやりとしている。素足で歩く床の感触に、体温を全て奪われそうだった。

 

(つめた・・・)

 

 足早に冷蔵庫から冷えた水のペットボトルを取り出すと、椅子を引き出して座る。

 膝を立て、その視線は何もない床へと向く。何をする訳でもなく、ただ茫然と床を見ていた。



 やがて冷たかった筈の「水」が、表面に水滴を浮かべるまで・・・・良佳は動かなかった。


 



サブタイトルが浮かびませんでした(^_^;)


良佳は、色々と考え込むタイプです。

その殆どが、マイナス思考に働いています。

でも、彼女は「信じる」ことは出来るのです。


それが、後々「彼」に変化をもたらしてくれます。

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