理由━yoshika━
2通目の返信は思いがけず届く。
その速さに驚きと、そして微かな「幸福」がそこにはあった。
暇なのかな・・・・ふと、そんな風に思う。
相手が何をしている人なのか、何処に居るのか、何も知らないのにメールは届き、それが尚更不思議で良佳は苦笑いになる。どこかで繋がっている・・・・言い表せない「親近感」のようなモノが嬉しかった。
━興味深い「言葉」をありがとう。
君は「yoshika」だね。
僕は「misumi」。
理由を、
教えてくれますか?
misumi ━
2通目には名前。
自分の名前が他の誰かに呼ばれている事が嬉しい。そこには苗字がなくて、紛れもない私の名前だけがある。自分の「存在」が認められた気がした。
「理由・・・・?」
また難しい文字がある。良佳には理解できない。相手が何に対しての理由を問いているのか・・・。
メールを送った事に関してなのか、メールの内容が「詩」だった事に対してなのか・・・それともそれら全てにかも知れない。
少し考え込む。
(どうすればいい・・・?)
言葉は難しい。
上手く伝わらなければ誤解を生み、時に傷つけてしまうこともある。
そこに「信頼関係」があればすぐに修復する事も可能だが、今相手との間に「信頼関係」はないのだ。あるのは、いつ切れてしまうとも知れない薄い「縁」だけ。
だから・・・・。
良佳は一つ息を吐く。自分を落ちつける為に。
窓から見える空を見上げ、流れる雲に目を伏せた。
そこに、もう迷いはない。
『misumi、
貴方は、
馬鹿な事だと笑うかも知れない。
これは賭けだったから。
デタラメの中の確率を、
私は、信じたかった。
誰かに届くと、
信じたかった・・・。 yoshika 』
飾らない言葉。馬鹿だと思われても良い。
なんて愚かだって嘲笑われても、もし、これで縁が壊れてしまっても。
・・・届いた「気持ち」に嘘は吐きたくない。誤魔化すのも嫌だった。
「等身大」の自分を知ってほしい。切なる願いなのだと思う。
メールを送ったことへの理由。今はそれだけ。
これが精一杯の気持ち。
「送信ボタン」を押すと、良佳はベットから下りて窓を開ける。
冬の冷たい風が彼女の頬を撫でて行く。高い高い空が、綺麗な澄んだ青空が目の前に広がる。
相手からの返信を待ちながら、良佳はただ外の街路樹が揺れるのを見つめていた・・・・。
メールのやり取りが始まる。
薄い「縁」を繋ぎ止めたくて、でも嘘は吐きたくない。
揺れる「良佳」の思い・・・。
30話目になります。
これからも頑張りたいと思います。