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メール━misumi━


月灯がこんなに淋しく感じたのは、いつ以来だろう・・・。

下弦の細い月が、それでも明るく照らす。少しウトウトとしていたのか、気がついた時には日が変わろうとしていた。

(こんな時間か・・・)

億劫に身体を起こすと、深澄は前髪を掻き上げる。先程までは怒りとか、嫌悪感で気がつかなかったが手にした髪はキシキシと軋む。潮風に当たっていたせいだろう。

大きく一つ溜息を吐くと、深澄は仕方なく重い腰を上げた。

服装は帰ってきた時のままだから、部屋の中に居るというのにコートとネクタイで、なんとも変な感じがする。

一つ一つ脱いでは、丁寧にハンガーにかけていく。コート、ブレザー、ネクタイ・・・私服登校の許可された学校なのに、彼は制服を着ている。


理由は簡単だ。


朝から服を選ぶ気にもならないし、そんなモノに時間を費やすのさえ無駄な事に思えた。その点「制服」は、選ぶ必要もなければ見た目も悪くはない。余程下手に着なければ、誰でも「それなり」に見える「服」と言っていいだろう。


(メンドクサイしな・・・)


私服で個性を判断されてしまうのも癪だし、優等生にも見えるのだからコレは「効果的」だといっていい。何より面倒臭くないのが良かった。

一通り着ていた服を片づけると、今度は部屋を出て風呂場に向かう事にする。軋む髪の毛を放置しておけるほど、自分に無頓着な訳ではない。時間が遅い事は気になるが、シャワー位なら良いだろう。

部屋を一歩出ると、そこはもう別の空間のように静かで、緊張感に満ちている。居心地が悪い。

微かな明りを頼りに廊下を歩き、脱衣所へと向かう。両親はまだリビングに居るようで、階段の下の方から明りが洩れていた。会いたくない。

そう思い、物音をたてないように深澄は脱衣所へと入った。

素早く身に着けていた衣服を脱ぎ、冷たい浴室へと足を踏み入れる。

お湯の温度を確認してシャワーを開け、「サー」と勢いよく流れ出た水に一瞬眉を顰めた。

目の前にある鏡に自分の姿が映り、自分の顔を見てうんざりする。自分が両親(あの二人)の血を継いでいるのだと、嫌でも気づかされる瞬間だった。やがて水がお湯に代わり、室内が湯気で満たされると鏡に映る自分も消えて行く。白い靄が全てを覆い隠してくれた。

(・・・自分の顔なんて、見たくない)

頭からシャワーのお湯をかぶり、深澄は嫌な事が流れて消えて欲しいと願った。せめて今は、それらを忘れたい。切なる願いだった。



シャワーを15分足らずで済ませ、深澄は髪も乾かさずに自室へと戻ってくる。長居は無用。またいつ母親に声をかけられるか分からないし、何より落ち着かないのだ。(ココ)には寝に戻るだけの様なものだから、暖かみも安らぎもなくて・・・自分の部屋にだって愛着がある訳じゃないが、この家の中ではマシな方だと言える。

部屋の明かりを点けて、カーテンを閉めようと窓際に立つ。月はもう空の一番高くに上り部屋から仰ぎ見る事は出来ない。一瞬躊躇って、深澄はカーテンを引いた。

(馬鹿馬鹿しい・・・)

月に焦がれるなど・・・月を見ていたいと思うなど愚かだ。月は「不条理」の塊であり、形を変える移ろうモノ。そこに留まらぬモノ。満月の夜には殺人が増えるとか、魔物が騒ぐとか・・・そんなのただの作り話であって根拠はない。そんな色々なモノが詰まった「月」だから、彼は「不条理」だと思っている。

床に座り込み携帯電話を手にする。

未開封のメール。いつの間にか溜まっていった不思議なメール。そこにはいつも心の叫びの様な「詩」があって、痛みとか、悲しみとか、そういうモノがあった。

一つ一つそのメールを読みなおす。普段なら気にも留めないメールが、メールと言う要件を伝えるだけの手段が・・・こんなにも心に届くモノだと初めて知った。こんなにも自分を苛々させるものだとも。

未開封のメールを開ける。そこに何が書かれているのか・・・それが知りたかった。

「月さえ・・・眠る夜に?」

タイトルには確かにそう書かれていた。聞きなれない言葉。造語だろうか・・。


『月さえ眠る夜に

 私は独り。

 誰もいない浜辺に座り、

 来ない貴方を待ちわびる。


 月さえ眠る夜に

 海は暗闇。

 水面に映るはずの月は、

 今は闇夜に身を顰め。


 月さえ眠る夜なのに、

 私は独り眠れない。

 ただ、温もりが欲しくて

 ただ、生きる意味を求めて

 今も心から叫んでる。


 月さえ眠る夜だから

 誰か私に「応え」を下さい・・・  』


その詩は切実だと思った。

読み終えていつもなら閉じてしまう携帯電話を、深澄は握り直す。そして・・・。

無意識にその指は「返信」ボタンを押していた。答が欲しい。それは深澄も同じだ。生きる意味も分からない。だから、このメールの相手と話がしてみたいと思った。

(半分は苛立ちだけどな・・・)

深澄は良い訳のように、そう心の中で呟く。自分の心を揺さぶるメールに苛立っていたのも事実なのだ。だから尚更、訳の分からないこのメールの真意を聞きたい。


深澄はこの日初めて、あのメールに応えた。

それは初めてあのメールが来てから3週間後のことだった・・・。




前回の終わり、みっちゃんがそのまま寝ちゃいそうな雰囲気だったので焦りました(^_^;)

お風呂は!?着替えは!?・・・しかも床だし(笑)!!・・・みたいな(゜-゜)

とりあえずちゃんと着替えてお風呂にも入ってくれたので一安心(^^ゞ

ついでに制服の謎にも補足できたし☆

27話でようやくメールの返信がされました(>_<)

・・・長かった(:_;)

これからも頑張ります。

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