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夜━misumi━


久しぶりに自由な時間を過ごした気がする。

深澄の心はここに来る前よりも数段軽くなった。

(久しぶりだ・・・)

帰りの電車に揺られながら、深澄は穏やかな気持ちになっている自分に気づく。外はすっかり暗くなり、帰宅ラッシュは避けたものの行きの何倍もの人で車内は混雑していた。普段なら人の多さに嫌気がさして音楽の音量を上げている処なのだが、今日はそれを耳にもしていない。

不思議だった。ただの気まぐれの気分転換だった筈が、こんなに大きな効果をもたらすとは・・・・気まぐれも時には役に立つらしい。

扉の脇に立ち、深澄は腕を組む。外を流れる景色に目をやれば、そこには色とりどりのネオンと沢山の人で溢れている。賑やかだ。

人ごみが嫌いな彼にとっては、最も避けたい場所であり、また最も自分に不釣り合いな場だとも思う。

そんな街並みを眺めながら、彼は家路を辿る。


最寄り駅に着いた頃には9時を回っていた。

(思ったより遅くなったな・・・)

と左腕につけた時計に目をやり、小さく息を吐く。少しの肌寒さを感じながら彼は通いなれた道を歩き自宅へと戻る。明りの灯らない無人の家に今日は珍しく明りが灯っていた。

深澄はその事に驚いてもう一度時計を見る。

(まだ早い・・・・何で)

いつもならまだ帰らないはずの人がそこに居ると言うだけで調子が狂う。深澄は舌打ちをして、家の前で立ち止まると、目を閉じ深呼吸を一つする。「優等生」・・・いや「良い息子」を演じる為に。

気持ちを落ちつけて、家の門を開けた。

制服のポケットから鍵を取り出し、差しこもうと手を伸ばす。不意に鍵が開いた音がした。

すりガラス越しに人影が見える。母親だ。

ガチャ

何事もないように平静を装い、扉を開ける。そこには不安げな母親の顔が、目が真っ直ぐに自分を見つめていた。

「ただいま・・・母さん」

深澄は相手にこれ以上の不安感を抱かせないように、最上級の愛想笑いを浮かべて見せる。そこに感情は無い。これも「良い息子」としての務めであり、自分に与えられた役割の一つに過ぎない。

「深澄、あなた・・・いつもこんなに遅いの?」

問いかけられる言葉には、嫌悪感と不安が入り混じり深澄の心を歪めて行く。彼女は、自分の意に介さない者を嫌う。自分がお腹を痛めて生んだ子供が、自分の分身ともあろう筈のモノが道を外れたのではないか・・・そればかりが彼女の思考を駆け巡っているのだろう。

「今日は図書館に寄っていたので、少し遅くなりました」

至極丁寧に、穏やかに語りかける。それでも彼女は疑いの眼差しを変えない。血の繋がりとはこれほどまでに脆いものなのだろうか・・・。世の中の親子は、もっと愛情や、絆で結ばれているのに・・・・この家にソレは存在しない。

以前は、深澄が高校に入るまでは何の疑いもなく信頼されていた。それが、ある件をきっかけにその絶対の信頼は無残にも崩れてしまった。

簡単な事だ。

深澄は両親の卒業した高校ではなく、勝手に志望校を今の進学校へと変えてしまった。そこに意図があった訳ではない。いや、もしかしたら無意識に親を拒絶していたのかも知れない。

そして、その行動は両親にとって、最大の裏切りに他ならなかった。

それ以来、ぎくしゃくとした空気が流れている。最も、深澄からすれば最初からそんな暖かな空気は無く、物心が着いた時からこの家の中には「緊張感」が漂っていたように思う。

(信じられないのは俺も同じか・・・)

家族であっても、例え血が繋がっていても、一度壊れた信頼関係を修復するのは難しい。

このまま対峙していても何も変わらない。

「部屋に戻りますね。おやすみなさい」

まだ立ち尽くす母親の横をすり抜け、深澄は階段を上る。後ろから声はかからない。その事に安堵して、足早に自分の部屋へと戻りドアを閉めた。

「・・・・はっ・・・何なんだよ・・・」

電気も点けず、ドアを背にして座り込むと深澄は表情(かお)を歪めて呟く。吐き気がする。

深く長いため息をついて、初めて部屋が明るい事に気づく。顔を上げると丁度窓から月が見えていた。

「はは・・・くだらねぇ・・・」

自嘲気味に笑うと、深澄は前髪をクシャッと掴み目を伏せる。



部屋にはカーテンを開けたままの窓から月の明りが差しこみ、深澄を哀しく照らしていた・・・。



良佳とは反対に、気が重い深澄です。

個人的に、深澄は好きです。

いや、良佳もだけど・・・なんか人間臭くて良いな~と(^_^;)


恋愛を書くのは初めてなのですが、これはこれで満足しています。

そんな感じで、次回もどうぞ~。

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