海━yoshika━
海が見たい。
電車に乗って、そう思った。
目的がある訳じゃなく、ただ「冬の海」が見たいと思ったのだ。
良佳は電車を乗り継ぎ、江の島海岸を目指す。
湘南新宿ラインを利用し、鎌倉からは「江ノ電」を使って移動する。電車は嫌いじゃない。
晴れた日の暖かな日差しを浴びながら、ゆっくりと進む道はその時間の流れも緩やかで優しい。
(ねむ・・・)
うとうととした眠気に襲われながらも、良佳はポケットから携帯電話を取り出した。待ち受けには寂しげな月がただ映るのみで新着のメールはない。
相変わらず返信はなく、届いたはずの気持ちは一方通行になったままだ。
(そんなに上手く行くはずない・・・・か)
本当ならばメールが届いただけで満足しなければいけないのに、一つの願いが叶えば、またすぐ次を期待する。それが人間の嫌な処。醜い処。自嘲気味に表情を歪めて、良佳は窓の外を眺める。そこには海が広がり、水面が太陽の光を受けてキラキラと輝いて見えた。
(きれい・・・)
導かれるように次の停車駅で下車すると、良佳は海岸へと歩き出す。さすがに観光地として有名な古都「鎌倉」は、海岸までの道筋があちらこちらに掲げられている為、初めて来た人間でも迷うことなく辿ることが出来る。良佳も案内の看板を辿り真っ直ぐに海へと辿り着いた。
「うわぁ」
思わず声が漏れる。目の前には見渡す限りの青い海、キラキラ光る水面が良佳を迎えてくれていた。
靴の中に砂が入ることも構わずに、良佳は階段を下りて砂浜へと下りる。コンクリートの地面とは全く違う感触のモノが、良佳の足を捉え靴に被さっていく。その感覚に知らずに顔が緩む。
冷たい冬の風が海上の潮の匂いを運んでは頬を掠め、髪を揺らした。
暫く海岸を歩く。犬の散歩をする人や、恋人同士だろうか男女が寄り添い歩いていくのが見えた。
一人でこんな処を歩いているのは自分くらいだろうと思って、余計可笑しくなる。なんだかそれが嬉しい。誰も自分を知らない。誰にも咎められない世界。誰にも侵されない・・・・自分。
当たり前のことなのに、あの狭い環境にはなかったもの。
不意に顔を上げると、反対から同じように一人で歩いてくる人がいる。
年の頃は同じくらい。何処かで見たような、綺麗な黒髪の端正な顔立ちをした男の人だった。
一瞬、目が合う。ドキッと胸が鼓動を打った気がした。
彼は、そのまま何事もなかったかのように良佳の横を通り過ぎ、行ってしまう。
後には寄せては返す、波の音だけが残り・・・・彼が通り過ぎた事を、ちょっと残念だと思った。
(・・・何が残念なんだか・・)
仁先生のことで懲りた筈なのに、そんなことを思う自分に吐き気がする。
良佳は一つ溜息を吐くと、砂浜に座った。ただ海を眺める。そこには静寂だけがあり、また他のものは何もない。
良佳はそのまま陽が沈むまで、空と水面に浮かぶ二つの太陽を眺めていた。
鎌倉、江の島海岸など数回訪れた事があります(^_^)
鶴岡八幡宮が綺麗でした。
そんなに近場ではないのですが、何故か好きなんですよね。
また機会があったら行きたいな~・・・と思いながら書きました。
そんなこんなで、更新です(^^ゞ