水溜りに映る空━misumi━
イライラする。
またあの妙なメールが来てからというもの、深澄の心は揺れていた。
(なんなんだよ・・・なんで俺なんだ)
やり場のない怒りを抱えながら、彼は一方で「優等生」を演じる。愛想笑いを振り撒き、何事もなかったかのように日常生活を送っていた。
「えっ?・・・今日半日で終わりですか?」
職員室に呼び出され、何事かと思えば気の抜けるような言葉を担任の教師から聞かされる。
「そうなんだよ。今、インフルエンザが流行ってきてるだろ?ただでさえ欠席が目立つのに、これから学年末に入って回ったら困るからなぁ」
「はぁ、そうですね」
余りにも突拍子のない話に深澄は曖昧に相槌を返す。確かに欠席の席数は増えてきている。だが、学級閉鎖に陥るほどでもないし、学年末前に勉強を遅れさせる方が痛いと思うのだが・・・。
そんな言葉を胸の内だけに留めて、深澄は職員室を後にした。勿論クラスへの説明を言いつけられたのは他でもない。
(休みか・・・)
これといって予定もないのだが、急に時間が空くのは余り歓迎できなかった。
陽の差しこむ渡り廊下を歩きながら、深澄はふと外を見る。中庭には未だ昨日の雨の傷跡が残っている。
ゆらゆら揺れる水面を見つめ、その中に映る空の「青」を綺麗だと思う。歪んだ心でも、何かを「綺麗」だと感じる事は出来る。そう思った。
「ふん・・・」
短く自分を嘲ると、視線を廊下に戻し再び教室へと歩き出した。
放課後・駅構内。
深澄は学校の最寄り駅にいる。午後はオフになり、することもない。生憎誰かと出掛ける気にもなれないし、こんな時誘える相手も思いつかないのだから「優等生」が聞いて呆れるが。
「さて・・・何処まで行くか」
パスケースに収まる電子マネーカードを口元に当て、路線図と睨めっこをする。行き先は未定。たまには気の向くままに行動してみようと思った。
今までにも考えた事はあるが、後処理や時間の都合などから実際に行動に移した事はない。
時間は有意義に使うのがベストだし、意味の無い行動は体力とお金の無駄に思えた。それなのに、今日は何故か動いている自分がいる。不思議な気分だが、予定もないのだから辞める理由もないだろう。
(とりあえず・・・乗るか)
ただ突っ立って考えたところで答えは出そうにない。今日の答えは自分しか与えてくれないのだから当たり前なのだが・・・・改札を抜けホームへと下りる。
平日の午後1時。さすがに学生は見当たらない。こんなことなら今日は私服で来るべきだった。コートを羽織っている為外から制服は見えないが、何となく居心地が悪い。
やがてアナウンスが流れ、橙色の電車がホームへとやって来た。東京行きだ。
車内に足を踏み入ると、生温かい風が頬を撫でる。深澄は暖房があまり得意ではない。この生温かい風が好きにはなれないのだ。
知らず知らずの内にドア付近の席に腰掛け、電車が動き出すのを待つ。目の前には小さな男の子連れの若そうな母親。不意に母親が息子を見ていた顔を上げ、目があってしまう。彼女はニコッと優しく微笑み会釈する。その姿に深澄も軽く頭を下げ、そのまま視線を逸らした。
(・・・なんか・・・)
幸せそうなその親子を見ていられない。今は直視したくなかった。
━アナタハ、シアワセデスカ━
またあの言葉が浮かぶ。
電車が動き出し、深澄は外を流れる景色にそっと目を閉じた。
深澄は一体何処へ行くのでしょうか(・・;)
まだまだ続きます(>_<)