水溜りに映る空━yoshika━
朝が来る。
どんなに哀しい一日を過ごしても、必ず夜は明けてしまう。
「朝が、来なければいいのに・・・」
ベットの中、カーテンの隙間から洩れる陽光に良佳は呟いた。誰にも届かない言葉は、白い息になり消えていく。
昨日の雨は嘘のように今日は雲一つない晴天になり、けれども良佳の心の靄だけは晴らせてくれなかったようだ。
「はぁ~・・・」
短く溜息を漏らし、顔にかかる前髪を掻きあげ時計に目をやる。八時十五分。いつもより遅い目覚め。
母親はもう出かけただろうか。父親は帰って来たのだろうか。そんな事を考えて、自嘲気味に笑う。
(そんなこと、どうでもいいくせに・・・)
例え母親がまだ仕事に行っていなくても、父親が誰の処に泊ってこようとも良佳には関係ない。お互いの事に干渉しない。それが上手く暮らしていくための規則だから、表面上の「家族」を演じる為に必要のない感情はいらないと思っていた。
掌に巻かれた包帯を眺め、ゆっくりと外す。白い包帯がベットの上にとぐろを巻いて、所々に赤を滲ませている。もう包帯をしていなくても目立たないくらいにはなった。元々包帯をしなければならないほど大げさな怪我でもないし、問題ないはずだ。
「バイバイ・・」
取り終えた包帯をそのままゴミ箱に入れると、良佳はようやく体を起こす。
枕の横にある携帯電話に手を伸ばすと、待ち受け画面を確認した。メール5件。この殆どがクラスメートからの嫌がらせや悪口の詰まったクダラナイメール。見る気にもならない。それでも件名と送り主だけを確認して、その都度メールを削除する。「メール」で傷ついたりしない。
今日は何をして過ごそう。事務的にメールを削除して、良佳は不意に考える。停学期間は七日間。特にすることも、したい事もない。停学中に出された課題は一通り目処もたっているし、家に引き籠っているのは気が引ける。
(出かけようかな・・・)
停学中に誰かに見られるのは厄介だし、面倒事になるのは避けたかった。でも家には居たくなくて、良佳はクローゼットを開いて適当に洋服を見繕う。
(コレと、コレ・・・・あとコレ)
男の子の様な格好に身を包み、バックも持たなくて済むように財布と携帯だけポケットに突っ込んだ。
変装をしたい訳じゃない。ただ、女である自分が嫌いだから「男」の格好をする。制服以外でスカートをはく事はない。それだけの理由。
誰もいないリビングを抜け、そのまま靴をはくと玄関を出る。
何処か遠くに行きたかった。何処でもいい。誰も自分を知らない何処か。
気の向くままに、行動してみたいと思った。
道路には昨日の雨の名残、水溜りが綺麗な青空を映していた・・・。
気づけば「月さえ眠る夜に」を書き始めて一月が経ちました(^^ゞ
何となく書き始めた恋愛モノですが、今は割と今後の展開を楽しみに書かせて頂いています。
これからも頑張って書いていきますので、二人を見守って下さい(^_^)