雨━misumi━
雨はやむ事を知らずに、ただ地面を叩いていく。
深澄はロッカーに常備しておいた「折りたたみ式傘」を手に取ると、学校を後にした。
いつもの道を辿り、やがて最寄りの駅へと着く。駅構内には人もまばらで、雨のせいか余計にうす暗い印象を受ける。プラットホームに下り、時刻表と自分の右手首にはまる時計を交互に見合わせ溜息を吐いた。
(次まで、結構あくな・・・)
空いていたベンチに腰掛け、深澄は徐にポケットに入れておいた「ipod」を取り出す。歩道を歩く時には使わないが、電車の中では必需品と言えるコレは人の話し声や、その他の雑音を消すのに最適だと思う。白い付属品のイヤーフォンを接続し、両耳にはめる。流す曲は洋楽からクラシックまで、その時の気分によって選ぶ。今日はクラシックの「亡き王女のためのパヴァ―ヌ」だ。
今日の選曲に深い意味はない。ただ、騒々しく歌詞を追わなくてもいいし、雨を見ながら聞くには丁度良いと思った。
深いため息をつき、茫然と雨を見つめる。先程より勢いが増した気さえした。
手持無沙汰な感じがして、ついつい胸ポケットから携帯電話を取り出している辺り「携帯依存症」なのかも知れない。そう思いながら携帯電話を開き待ち受け画面をチェックする。
画面には少しかけた月が表示されていた。以前彼自身がカメラ機能で撮影したものをそのまま使っているのだ。
(十六夜・・・・誘う・・月か)
変わり映えのしない待ち受けを眺め、携帯を閉じようとした時・・・不意に携帯が揺れる。メールだ。
表示されたのは、また知らないアドレス。あの妙なメールの主だった。
(また?・・・・よっぽど暇なのか?)
深澄は訝しく思いながらも、そのメールを開く。中にはやはり「詩」が綴られていた。
「・・・・・」
深澄は言葉を失う。
その詩には「悲しみ」や「憂い」のようなものが滲んでいるように思えた。
それと・・・・「淋しさ」。
言い様の無い「淋しさ」と「怒り」・・・も込められているのだろうか。
(「キヅイテ」・・・か)
叫びの様なその数文字を見つめ、深澄は考え込む。
引っかかる。自分の中の何処かに訴えかけられているような、そんな感情。
やがてホームに電車が入ってきた。待っていた数名の乗車客が一斉に動き出し、電車を降りる人たちと交差していく。それでも深澄は携帯を握り俯いていた。
返信はしない。何かに巻きこまれるのはごめんだ。そう思っているのは、今も変わらない。なのに、どうして心が揺れているのだろうか。深澄は不思議だった。
発車のベルが辺りに鳴り響き、電車のドアが閉まる。そのまま電車が遠くに消えるまで、深澄は俯いていた。
「俺に、どうしろって言うんだよ・・・」
後には、苛立たしげな彼の呟きだけが残り、それさえも雨の音はかき消していった。
再び届いたメール。募る苛立ち。
二人は出会えるのか・・・。
大分近づいてきた気がします(^_^;)