傷━misumi━
放課後、深澄は図書館へと足を運んだ。
校内にある図書館は、さすが「進学校」と言えるほど大きく貴重な蔵書も保管され、ただ本を読みふけるのも良し、また情報を集めるという意味でも「図書館」は重宝している。
何よりこの静寂と、天気の良い日に差し込む日差しが気にいっていた。
(これと・・これ・・・か)
今日は天気が悪く、いつもの館内が少しうす暗く見える。
それでも司書に聞くでもなく自分で課題に必要な資料を探し当てられるほどには、ここの構造を知っていた。
数冊手に取ると、それをコピー機にもって行き必要な箇所を印刷する。それを何度か繰り返し、ようやく一通り揃え終えたところで窓の外に気づく。
「・・・雨?」
窓ガラスにぽつぽつと滴がぶつかり、外はいつしか雨が降り出していた。
外にいた学生は慌てて帰路に着く者や、校内に飛び込む者などで賑わい、そしてまたすぐに静寂が訪れる。深澄は溜息を一つ吐く。
今まさにこれから帰ろうと思っていた矢先の出来事。今日はとことんついていない一日だと思った。
仕方なく人気のない離れた席に腰掛け、雨がやむのを待つ。ぼんやりとコピーした資料に目を通し、頬杖をつく。ゆっくりとした時が流れていた。
暗い、暗い闇。そして静寂がある。
『・・・甘えなさい。子供は大人に甘えるものだ』
不意に誰かの声が聞こえてきた。優しく、諭すような声。
『君は親を甘やかし過ぎている。大丈夫・・・思う通りに生きなさい』
誰だったろうか。暗闇の中に白く人影が浮かぶ。後少しで思いだせそうなのに、肝心の顔がぼやけて見えない。
彼は・・・寂しげに笑って消えていく。顔は分からないのに、その表情が「寂しそう」だと思ったのは、何故なのだろうか・・・。
(知っている・・・・俺はこの人のこんな表情を・・)
段々薄れていく人影に、深澄は「これが夢だ」と気づきながらも声をかけた。
「行かないで・・・俺を・・・」
━オレヲ、オイテカナイデ━
最後の方は言葉にはならずに消えていった。
その瞬間ハッ、として深澄は目を覚ます。時計に目をやると先程から五分ほど経っていた。
(うたた寝・・・夢・・・?)
辺りに人影はなく、誰にも聞かれなかった事に安堵する。余り思い出したくない夢。以前の自分がそこにいたから、深澄は余計不快に感じた。
苦い顔をして、外を見る。未だ雨は降り続けていた。
(・・・・行くか)
それでも、これ以上その場にいたくなくて帰路に着く事を選ぶ。カバンに資料を詰めようと紙類をまとめ、その時。
「・・・痛っ」
一枚の紙で指先が切れた。すぐそこに「赤い線」が走る。
咄嗟に指先を舌で舐め、血を拭うが後から後からそこには赤が滲み、線を作っていく。
苛立ちながらポケットからハンカチを取り出し、患部へと強く当てた。
(くそっ・・・何なんだ)
もしここが学校の敷地内でなければ、舌打ちか悪態をついていたのは言うまでもない。彼はそういう奴だ。
すぐさま残った資料をまとめ、カバンに詰め込む。そのまま席を立ち、深澄は何事もなかったかのように司書に笑顔で挨拶を済ませ、図書館を後にした。
ひんやりとした冬の午後。
手にはハンカチが巻かれ、外には雨が降り続いていた・・・・。
とうとう雨まで降り出しました・・・。
イライラモードの深澄君です(^_^;)
まだまだ続きますよ~・・・感想・ご意見お待ちしておりますm(__)m