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灯━yoshika━


教室の隅。一番後ろが私の席。

陽の当らない、誰の目にも触れられない居場所。


二時限目も終わり、良佳はようやく自分の教室へと足を向けた。

教室内はざわざわと休み時間を満喫し、誰も彼女に気づく者はいない。ふと、自分の机に目をやると菊の花が一輪、花瓶にも入れられずに茶色の無機質な板の上に横たわっている。

(・・・・・古典的・・・)

余りにも使い古された方法に、良佳は周りに気づかれないように嘲笑の笑みを漏らした。その花を手にとって、眺める。朝から花を眺める事になろうとは思ってもいなかったが、これはこれで美しいと思う。

大事に、大切に育てられたであろう「菊」は、大輪の花を咲かせている。自分より余程尊いモノに思えた。

カラカラッ・・・

窓を開け、灰色の雲がはびこる冷たい空を見上げる。風も冷たい。

「・・・ばいばい」

伸ばした手のひらに菊の花一輪乗せ、そっとその花を地上へと葬る。そこに感情はない。ひらひら落ちていく黄色い花が、まるで自分の「心」の様に思えた。花が地上に音もなく落ちたのを見届けて、良佳は窓を閉める。その時だった。

「あれぇ~、七瀬ちゃんだ~」

「なになに~、今更ガッコに来たの~」

何故彼女たちは言葉の語尾を伸ばすのだろうか。そうでなくても頭悪そうに見えるのに、これでは尚更「馬鹿(ソレ)」を強調しているようである。

「・・・・」

良佳は何も答えずに席に着く。不満そうな少女たちを横目に、カバンを机の横に引っ掻けようとして手を伸ばす。その瞬間、熱い様な痛みが走った。

「・・・うっ・・痛っ」

ドサッ 

急な痛みに良佳は手を引き、カバンは音を立てて床へと落ちる。一部始終を見ていた少女たちはくすくすと笑い声を漏らし、良佳の手からは赤いモノが伝っていた。意図的に仕掛けられたカッターの刃が、良佳に牙をむきその手を赤く染めて行く。切れたのは指先だけの筈なのに、ぽたぽたとその赤色はスカートに落ちた。

「だいじょうぶ~?」

「いけないね~・・誰がそんなことしたんだろ」

「先セェ、呼んでこようか~?」

群れる事しか出来ない少女たちが、口々に吠える。犯人なんて分かり切っていた。今、目の前で笑う人間以外に考えられるのだろうかとさえ思う。

そんな感情を抑え、良佳は勤めて何事もなかったかのように手をハンカチで包み笑って見せる。

「大丈夫、何でもないから」

何でもないわけがない。切れた指先からは未だに血が流れているし、どんどん熱を帯びていく。それでも笑うのは、こんなことで彼女たちに負けたくはなかった。被害者面はしたくない。そう思った。

「・・・・・」

少女たちは、良佳の笑みを見てピクリと眉を引きつらせている。それでも、良佳は笑みを壊さずに席を立った。

「ちょっと、保健室に行ってくる」

それだけを言うと、不満そうな彼女たちを後目に今来たばかりの教室を後にした。



ひんやりと冷たい廊下に出て、ようやく笑みを崩す。手が、指先が熱いのに・・冷たい。

こんなことをされれば、普段ならとっくに感情を殺して何も考えない「人形」になっている処だ。

でも、今日の良佳は違う。「人形」にはなれない。哀しいし、悔しいけれども・・・心には一筋の光が灯っているから、今日は逃げたくないと思った。

誰かに届いた「気持ち(メール)」があるから、それが今の彼女を支えている。

(保健室・・・・行きたくないな・・・)

三時限目の始まりを告げる音が鳴り出し、賑わっていた廊下から人が薄れていく。

皆、立ち止まった良佳を避けるように横を通り思い思いの場所へと辿り着くのに、良佳だけがその場に取り残された。保健室には行きたくない。でも、この手を手当てせずには戻れないと思った。

仕方なく良佳は歩き出す。その足取りは重いものだった。



良佳の心に灯った「希望の灯」。

消えないように、消さないように・・・良佳は生きる。



キャラクターが一人歩きしてます(^_^;)

今後どんな話になるのか彩人にもよく分かっていませんが・・・頑張ります。

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