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寝すぎたオッサン、無双する〜親友カップルをかばって昏睡から20年、目覚めたら俺のハズレスキル〈睡眠〉が万能究極化してて最強でした。超人気配信冒険者の親友の娘姉妹が、おじサマと慕って離してくれません〜  作者: ミオニチ
ネルトと娘姉妹の新たな誓い さあ! ――――へ! 編

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寝すぎ54 いま持てる互いの力すべてを尽くしてこの決闘を。……そして、楽しい時間は終わりを告げる。

「よし……! これだ……! この形態変形なら……!」


 ――20年前の借り、過去のすべてを清算すべく決意をもってダンジョンに挑むその前日、ネルトは得たその確かな手ごたえにグッとこぶしを握る。


「もう一つなんとか物になったほうは、たぶん明日は出番がなさそうだな……。ボスまでの道中はパフとスピーが手伝ってくれるっていうし。けど、小型魔物相手や、いずれあるかもしれないガチの対人戦ならこっちのほうが……!」


 その確かな手ごたえに、ネルトはもう一度グッとこぶしを握った。



     *



 そしていま、高く高く陽が照らす下、ネルトはそのもう一つの切り札の名を告げる。


自在創造甲(マテリアル)、形態変形……! 〈百万人甲(ミリオンズ・アーム)〉……!」


 それは、あのダンジョンで大怪鳥を倒した〈巨人の(ギガンティック)剛甲(・アーム)〉のように派手な変形を伴うものではない。


 その唯一にして最大の特徴は、絶対破壊不可能(アンブレイカブル)と言っていいほどの圧倒的な()()()


 そう。この形態変形〈百万人甲〉は、その相似した名のとおり、無二の相棒たるこの自在創造甲を手に入れたその同じ日に試着した、あのさんざん地味と言われていた頑強さを唯一の特徴とするA級武器・千人甲を着想にして創造されたものだ。


 ――だが。


「「きれい……!」」


 見つめる娘姉妹、パフィールとスピーリアが感嘆の声を上げる。


 そう。地味どころではない。半透明な自在創造甲が幾重にも幾重にも密度を増し、瞬く間に何千何万と重ねた積載構造へと形態変形していく様は、まるで熟練の職人による超絶技巧によって形づくられていく流麗な硝子細工のごとく繊細かつ美しいものだった。


「さぁ……! やるかぁ……! おおあああぁぁぁっっ……!」


 そして、その特徴。決して壊れない頑強さを持つということは、つまり――いくらでも()()()()()()()、ということ。


「おおおおおああああああああぁぁぁぁっっ……!」


 ――超圧縮。


 水の中。重ね合わせた両の〈百万人甲〉の(てのひら)の狭間、そのわずかな空隙。


 そこにネルトは万力の――否、百万力の圧と魔力をこめつづける。


 凝縮し、圧縮し、また凝圧縮を繰り返し、そこに精製されるのは、水の――極小玉。


 プールの機能という()()()をいっさい使わずに、手ずからネルトの力のみでつくりだした水の圧塊。


 超々高密度の強固な魔力の膜で覆われた、決して容易に壊れることはない水の――弾丸。


「へ、へへ……! 待たせたなぁ……! ハワード……!」


 その片手で握りこめるほどに超圧縮された小球状の水の弾丸を手に、ネルトは対峙するハワードに向きなおった。


「じゃあ……! いいっくぜえぇぇぇっっ!」


 そして、その確実にあたればただではすまない水の弾丸を躊躇なく全力で投げつける。


「お、オジサマっ!?」


「ネルおじっ!?」


 悲鳴にも似た驚きの声をパフィールとスピーリアが上げる中、じっと事の成り行きを見守っていた二人の母フィーリアは静かにこう告げる。


「大丈夫。ねえ、ハワード」


 ――実際には、その時間は刹那。


 ゆえに実際には、そのすべてはほとんどが同時に起きた。


「スキル〈肉体活性――剛・柔〉」


 迫りくる水の弾丸に向けてハワードはそうつぶやくと――無手のまま構え、下段から斜め上へと()()()()()


 ヴォン。


()()――断空」


 その最中(さなか)個人収納空間(ロッカー)から抜き放たれたのは、漆黒の刃。


 ――この世界にわずか、指の本数で数える程度しか存在しないとされる最高峰のS級武器のその一つ。


 空間、いや世界そのものすら断ち切る力を持つとされる、本人のその極めて高い能力と合わせて、ハワードを英雄冒険者随一の実力者たらしめた愛剣・断空。


 その高速で振り抜かれた黒き剣閃は、舞い散る飛沫を、清涼な空気を、そして水の弾丸をすべて等しく真っ二つに斬り裂いた。


 すべてを斬り終えたハワードが右手の剣を下げ、ふっ、と笑みをこぼす。


「……X級武器、自在創造甲だったかい? まさか、このS級武器、断空を抜いてもなおとどかないとはね」


 ――ピッ、とその頬に一筋、赤い線が横切った。


「やられたよ。ネルト」


 それは、超圧縮された結果、斬り裂かれ真っ二つとなりその端がくずれ飛び散っても、なおその硬度を保ちつづけていた水の弾丸の()()()()()で切った、その敗北のあかし。


「後手は君の勝ちだ」


 頬の微かな切り傷から垂れた血をビッ……! と指で拭い口角を上げながら、ハワードはそう告げる。


「へへっ……! まずは、これで一勝一敗だな……! さあ……! おたがいに伏せてた切り札を切ったところで、さあ……! 次で決着といこうぜぇ……!」


「ふふ。そうだね……! と言いたいところだけど……本当にすまない。ネルト。残念だが時間が来てしまった。今日はここまでだ」


 コゥン、コゥン……!


 不敵に笑うネルトに対し、心の底から残念そうに苦笑で返すハワード。


 そして、その言葉に応えるように、タワーマンションの屋上、照りつける太陽を遮るように影がさした。

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