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寝すぎ37 ガチめに狙われる男と、ピースフル夫妻の最推し。……マジでいろいろと台無しじゃのう。

「先のニオ会長と違って、推し……ではありませんが、私が注目するのは、彼。スキル〈脚光〉を保有する赤獅子レオキンです」


 副官クロップがそう告げると同時、パッと大画面モニターが会長を魅了してやまない小動物的な愛らしさを振りまくピンク髪の魔法少女から、赤髪の長髪でファーつきのコートを着た全身キメキメの若い男に切り替わった。


 その憂いを帯びた切れ長な赤い瞳と端正な顔だちは、魔導楽器でも弾いてみせたら、いかにもキャーキャー言われそうだった。


 というか楽器は弾いていないが実際に言われていた。


 配信画面では、『『レオキンさまー! キャー! 素敵ー! 抱いてー! あなたを殺して私も死ぬー!』』と黄色い悲鳴でいっぱいだった。……あなたを殺して私も死ぬ?


 パリッ。


「うっげぇぇ〜。趣味が悪いのう。くろぷー。この自己陶酔(ナルシスト)男、わしきらいじゃあ〜。少々顔がイケてるとこやつのファンどもに思われてるからって、いっつも取り巻きの女の子はべらして、鼻につくったらないのう! わしの好みではまったくないし……」


 トリップ状態からようやく戻ってきたらしい会長がさっきの興奮状態はどこへやら、白バニー姿のままでげんなりとした姿を見せる。


 最推しの魔法少女を推す番が終わって気が抜けたのか、席に座ってぐでーんと前のめりに突っ伏して、塩せんべいをパリパリとつまんでいた。


 すちゃ、と強化眼鏡を上げてから、副官クロップがそれに反論する。


「ニオ会長。好き嫌いではありません。いえ。むしろだからこそでしょうか。スキル〈脚光〉。自らに注目が集まれば集まるほどに、声援を受ければ受けるほどに強化されるというその特性。まさに、その自己陶酔的性格と、そして配信という数多の人間に観られるこ前提のこの〈果ての先〉の時代のシステムが絶妙に噛み合った結果、彼の強さは磐石となっています。その一例は、画面を見れば明らかでしょう」


 モニターの中では、スキルの効果で辺りが暗くなりパッとそこだけスポットライトが当たる中、自らが完膚なきまでに破壊しつくした巨大な魔導兵器の残骸を背景に、憂いを帯びた顔で男がキメキメで勝利ポーズをとっていた。


『『レオキン! 最強! レオキン! 無敵! レオキン! 究極〜!』』とレオキンコールと呼ばれるファンコールを心を一つにして行い、ファンであるリスナーも超々盛り上がっている。


『……にひ。こんな雑魚では、ダメ。もっと強敵相手に疲弊した隙をつけば……。きっと、れ、レオキンさまを……わ、私が……! にひ、にひひ……!』


 ……約一名、かなーりヤンデレ気味にガチめに狙っていらっしゃいます?


「では、次は僕とフィーリアですね。僕たちが推すのは――」


「あー、はいはい。聞かずともわかっておる。もう耳タコじゃ。どうせ目に百万回入れても可愛くてたまらないとのたまってやまないぬしらの娘たちじゃろ。そんなに言うなら、早く〈第一の果て〉の〈果ての塔〉に挑戦させてみればよいと、前から言っておると」


「――ネルト。僕とフィーリアが自信をもって推すのは、配信冒険者ネルト・グローアップです」


「何……? ネルト……? 誰です? そんな名前の有力な配信冒険者、聞いたことがありませんが」


「……いや、待て。くろぷー。その名前、確かにどこかで――そうじゃ……!? 20年前にぬしらをかばって昏睡したという、()()ぬしらの親友……!?」


 ハッと顔を上げて驚きの表情を見せる会長に、フィーリアはおっとりとやわらかく微笑んだ。


「ふふ。今日はちょうどいい機会ですね。実は、娘たちから連絡をもらっていまして。ここにいるみんなでいまから観てみませんか?」


「そう! いずれ必ずこの人類の最前線に到達する、いや必ず僕たちと肩を並べて戦うことになる、20年の眠りから蘇った僕の最高の親友の勇姿を! そして!」


 ガタッと立ち上がったハワードが体の前で力強くこぶしを握る。


「パフとスピー! 僕とフィーリアの可愛くて愛らしくて可愛くて目に一億回入れても可愛くてたまらない娘たちの晴れ姿を!」


 キラキラとした目のハワードにつられるようにパッとモニターが切り替わると、いままさに生配信がはじまるその瞬間。


 ハワードとフィーリアの娘姉妹パフィールとスピーリアが定例となった特徴的な自分たちの配信オープニングのやりとりをまさにはじめるところだった。


「はぁ。ようやっと少しは娘離れをしたのかと思えば……マジでいろいろと台無しじゃのう……」


 パリッ。


 そして、白バニー姿の会長ニオームが仏頂面で塩せんべいをかじり。


「ネルト・グローアップ、ですか。20年の昏睡も彼らの恩人であるという事実も、私はまったく興味はありません。ですが、同僚として、友人として信頼するピースフル夫妻が推すというならば、その実力とくと見せてもらいましょう」


 上げた強化眼鏡を副官クロップがビカッと光らせる。


 ――期せずして、ここに世界最高の有力、権力、実力者たちが見守る中、ついにはじまろうとしていた。


 ネルト・グローアップ。20年の眠りから醒めた遅れてきた超新星男。あらゆる意味で世界を騒がせるその配信冒険者デビュー戦が――いま。

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