寝すぎ33 スポンサーと、一つの手応え。――いよいよ、次は……!
「申し遅れました! ネルトさま! パフィールさま! スピーリアさま! 私は、セヴァンス・シャールと申します! 以後お見知りおきを!」
そう言って、ビシッと背を伸ばすとロマンスグレーの執事セヴァンスは、深々と頭を下げた。
さりげなく、名前を呼ぶ順番がSーVIP会員の姉妹をさしおいてネルトが一番になっているあたり、その本気度というか入れこみようが窺える。
―― なんだろう? なんとなくしっくりくるような、なぜかちょっと惜しいような気がする名前だな?
ま、いいか。にしても。
「ああ。まあ、よろしく。セヴァンスさん。けど、俺のスポンサーになるって、どう見てもあんたにそんな権限あるようには見えねえんだけど?」
そこでセヴァンスは、コホンと一つせき払いをしてみせる。
「確かにいまの私は、ネルトさまのおっしゃるとおり、半分趣味のような自分で望んで来た閑職です……!」
――あ。自分で閑職って言っちゃうんだ。ていうか自分で望んできたんだ。と、目配せしたネルトとパフィールは同時に思った。
意外にもスピーリアは、うんうんとわりと真剣に聞いている。
「しかし! いままで長年築きあげてきた人脈はあります! もちろん上層部にも! そして、何よりも証拠が! 防犯のためにこの部屋を常時撮影している際の、先ほどネルトさまがあのいままで誰一人として扱えなかった自在創造甲を自在に創造し変形させてみせた動画があります! これを見れば、必ずや上層部も重い腰を上げざるをえないでしょう! いえ! むしろ、これを見て動かないような腑抜けぞろいならば、一度は幹部の一人として、次期社長候補として名を連ねたこのセヴァンスが追い落としてやらねばなりません!」
――あ。元幹部だったんだ。しかもなんか、野心めっちゃメラメラと再燃してない? と思いつつも、ならまんざらない話でもないのか? とそう結論づけたネルトは、そろそろ話を切り上げることにした。
「わかった。セヴァンスさん。あんたの話、信じるよ。とりあえず本決まりになったら、俺のスマホに連絡してくれ」
「はい! ネルトさま! 必ずや、吉報をお約束いたします!」
ガッチリと握手など交わしつつ、そのあとは自在創造甲の無償譲渡、ネルトの右手のひら(正確には、その少し外側の生体魔力の膜)に個人収納空間の魔法式を刻んでもらう。
最後は、来たとき以上に深々と頭を下げるセヴァンスに見送られ、ネルトたちは店をあとにした。
――そのあとは、ほぼいつもと同じ。送迎のリムジンでは、ネルトが姉妹にあ〜ん、され。夕食では、またも〈天下一三郎〉のギガントマックスと相対してはスピーリアのつぶらな瞳と期待に応え、姉妹との混浴露天風呂では、スキル全開でなんとか今日も和気藹々を保ちつつ。
「よし……! これだ……! この形態変形なら……!」
その合間に自在創造甲の形態変形を試し、そのうちの一つの結果にネルトは確かな手応えを得る。
そして、一日の終わり。自室のベッドに腰かけながら、ネルトはこぶしを握り、気合いを入れていた。
――いよいよ次は、あのダンジョンだ! 見てろよ……! 俺の20年……! そして……! とにかくいまの俺を全部ぶつけて、デビュー即! 大っ活躍してやるぜ……!
静かにそう闘志を燃やすと、ネルトは明日に備えて眠りについた。
――まだネルトは知らない。明日に待ち受けるいくつもの波乱と、その先に拓かれる自らの運命を。




