寝すぎ28 盗難防止魔法と、姉妹のいたずら。(妹)……傷つけたり、しない?
「いや、おっかしいと思ったぜ! いくらあの力自慢のハワードの愛娘でも、これはマジ人間離れしすぎだろ!? って。おー、痛て……! あーあ! 10倍の重さの剣なんざ知らずに片手で振りまわしたから右腕が張っちまって痛えなー?」
「う、うぅ……! わ、悪かったってさっきから言ってるじゃない……! ほんのちょっとした可愛いいたずらのつもりだったのよ……! ほ、ほら……! こうやってお詫びのしるしに腕だってたくさん揉んであげてるんだし……! お願い! 許して? オジサマ! ね?」
立ち寄った公園。噴水前のベンチに半分演技だが憮然とした顔でどっかと座るネルト。
その左となりに腰かけ侍るいたずらを仕掛けたパフィールは、なんとか機嫌を直してもらおうとネルトが痛む? と言いはるその右腕を丹念に丹念に揉みほぐしていた。
その位置関係からちょうどのぞきこむかたちになった、ぱふぷるにゅんと揺れるふくらみ、なんとか許してもらおうと可愛くおねだりする上目遣いを堪能してから、ネルトは鷹揚にうなずき、パフィールの頭に手を伸ばした。
「おう! 反省したみたいだし、まあこれで許してやっか! ほれほれ〜!」
「きゃいっ!? な、何するのよ! オジサマ! あー、あたしの前髪ぐっしゃぐしゃ〜!」
ワシャワシャとネルトに乱雑に撫でられた髪を手ぐしで直すパフィールは少しふくれながらも、まんざらでもないらしく笑顔でそうつぶやいた。
「ん。できた」
そのとき、いままで黙って何事か作業をしていた逆の右となりに座るスピーリアがおもむろにうなずく。
「はい。ネルおじ。これ。パフねえといっしょで、ハワぱぱからもらったわたしの愛剣・薄氷」
それから、すでに所有する個人収納空間から取りだしていたらしい姉パフィールの焔に比べて少し細身で、その瞳の色によく似た全体に薄く氷が張ったように青く美しい片刃の長剣をネルトに向かって、ずいと差しだす。
――当然ながら、ネルトは困惑した。
「えーっと。スピー……さん? この流れで?」
どう考えてもパフィールの時と同じで何か仕掛けられているとしか思えないんだけど? そこんとこ、どうなん? と思わず、さん付けするほどに警戒するネルトに対して、しかしスピーリアはきょとんと首を傾げる。
「わたしは、ネルおじを傷つけたり、しない?」
それから、言い終わりにちらりと姉パフィールに、引き合いに出すように視線を向けた。
「ちょ、ちょっと! スピー!?」
「そ、そうだよな! いやあ! 疑って悪かっ――!?」
結果的に妹にダシにされる羽目になったパフィールがスピーリアに食ってかかるのを横目に、薄氷に触れ――その瞬間、ネルトの視界が暗転する。
――な、なんだっ……!?
『『『ネルおじ……』』』
す、スピー!? って、うわっ!?
真っ暗なネルトの視界の中、そこだけ白く浮かび上がるように映るのは、何人も、何人ものスピーリア。
それも一様に、すでに目にした白い制服や下を履いていない魅惑の水色と縞の部屋着だけでなく、色とりどりの下着や水着、さらにはナース服や飛空艇添乗員、バニーガール、さらにはマニアックな体操着などなどといった多種多様な衣装に身を包んでいる。
さらにその全員がネルトを囲むようにすぴぷにゅむにゅとそのふくらみとやわらかな肢体を押しつけてきて――
『『『……ネルおじ? ここ、おっ――』』』
「う、うわああぁぁぁっっ!?」
――その瞬間。すんでのところで矜持を守り、カランカランッ……! とネルトは薄氷を取り落とした。
「はあっ、はあっ……!? しゃっ……!?」
それから、かがんで地面に落ちた剣を拾い上げ、ん? と小首を傾げるスピーリアに向かって、おもいきりがなり立てる。
「しゃ、社会的に死ぬわぁぁっっ!? い、いや待てっ!? い、いまの盗難防止魔法だよな!? な、なら、い、いまのを赤の他人に見せるってことか……!? す、スピー……!? お、おま……何考えて……!?」
「ん? それは誤解。大丈夫。ネルおじ。安心していい。いまのはもともとかけていたわたしお手製の盗難防止魔法〈恐怖の叫び〉の仕様をスキル〈精神超感応〉で少しネルおじ専用にいじっただけだから。本来は、さっきのいっぱいまとわりつくのがその人の死ぬほど嫌いな生きものに変わる……気持ち悪い虫とか」
つう、と愛剣・薄氷の青い刀身を細い指でなぞりながらスピーリアはあっさりとそう言い、すぴっと薄く笑みを浮かべる。
――思わず、さっきの社会的に危なかった魅惑誘惑の光景が本来のおぞましいものに変わるのをついつい想像してしまったネルトは、今度は心底からの恐怖にぶるりと体を震わせ、こう叫んだ。
「せ、精神的に死ぬわぁぁぁぁっっっ!?」




