寝すぎ25 ピースフル姉妹 対 ネルト。決着――いつか、必ず。
――ん。さすがパフねえ。あのスキル全開の一撃なら、たぶん一時的にハワぱぱにだって匹敵する。もちろん、例の切り札のスキルはのぞいてだけど。
姉パフィールに一歩遅れて駆け出しながら、妹スピーリアの精神はどこまでも冷静だった。
「へへ! さすがにすげえ迫力だな!」
――でも、このままじゃとどかない。相手は真っ向からの力比べでそのハワぱぱを破ったネルおじ。正面からじゃとどかない。
だから――こうする。
「こりゃあ気を引き締めねえ、とっ!?」
「スキル。〈精神超感応――掌握〉。わたしを見て」
スキル〈精神超感応〉。その力で作った相手との強制的な精神的繋がり。それを手繰りよせることで、ネルトの意識をスピーリアは強制的に自分へと向けさせる。
……ついでに、2割増しで可愛く見えるように操作してみたり。
――ん。これでいい。これでネルおじはわたしから目を離せない。正面からじゃなければ、まちがいなくパフねえの攻撃はネルおじにとどきえる。
すうっと青い瞳を細めると、その間にも全力で駆けながらスピーリアは刃をぐっと握りなおした。
もし、倒せなくてもパフねえに意識が向いたら今度はわたしがその隙を――刺す。
「やああああっ!」
濃密な、圧縮したような思考の時間が終わり、スピーリアの目前、パフィールがその固定した魔力に鎧われた巨大な豪腕で大剣を振り下ろす。
――その刹那。ネルトは、目を閉じた。
「っっ!?」
――リンクが……切れっ!? まさか……!? いまの攻撃の瞬間、戦闘の最中に、一瞬寝てっ!?
「おおおあああっ!」
ネルトが、カッと目を見開く。
「ぐっ! きゃあっ!?」
衝突の、まさにその寸前の迎撃。正対し全力で振るった左こぶしがまとうその魔力ごと握るパフィールの剣を強打し、はじき飛ばした。
「パフねえっ!」
間髪入れずに迫るスピーリアに向かって、ネルトは今度は右こぶしをおそろしい速さで打ち放つ。
「おああああっ!」
「スキル! 〈精神超感応――掌握〉! 外らせ!」
一秒にも満たないパフィールとの攻防の最中にすばやく繋ぎなおしたリンク。直撃すれば間違いなく戦闘不能となるネルトの右こぶしの圧力の中、スピーリアはそれでも臆せずに前に出る。
踏みこむと同時、スキルの力でわずかに外に逸らせたネルトの右こぶしを手にした剣でさらにいなした。チッとその銀の髪が数本宙に散る。
そのまま、さらに一歩踏みこんだスピーリアの切先がネルトの体をとらえ――
「っ!?」
――突き立てる寸前、刃がビタリと動かなくなる。一秒にも満たないその一瞬に、ネルトの右手に刺そうとしたその剣身をつかまれて。
「らあっ!」
「あうっ!?」
そのままグルンと手にした剣を体ごと捻られバランスをくずされると、スピーリアは床の上にべしゃりと倒れ伏した。
つかんだ剣をネルトが手放す。カランカランと戦闘が終わったことを告げる乾いた音が響く。
「ん、うんんんっ……!」
悔しさに呻くスピーリアの視線の先には、床に尻もちをついた姉の姿が見えた。
――同じように、悔し涙をにじませる姉の姿が。全力を尽くし、それでも欠片もとどかなかったどこか清々しいまでの完敗に泣き笑いの顔を見せる姉の姿が。
「あは、ふふふっ……! 遠い……わね……! スピー……! でも……!」
「ん、うんんっ……! パフねえ……! でも、でも、これで知れた……! だから、だから、ぜったい……!」
――互いに同時に意思をこめ、手を這わせ、落ちたそれを、手放したそれをふたたびつかみとる。
「ええ……! 必ずたどりつくわよ……! いまこの身で思い知ったこの頂まで……! あたしたち、ふたりで……!」
そうしてふたりは、キンッ……! と互いの剣の切先を重ね合わせる。
床の上に座りこみ、悔しさに姉は瞳を潤ませ、妹はおもいきりぽろぽろと泣きじゃくりながらも――
「やるわよ……! スピー……! あたしたちが、オジサマと……!」
「うん……! パフねえ……! わたしたちが、ネルおじと……!」
――いつか必ず、あたし、わたしたちが大好きなおじサマと肩を並べるために……! とかたくかたく、姉妹同じ誓いを胸に。
第2編完結です。次回より新展開。
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