寝すぎ24 ピースフル姉妹 対 ネルト。――わたしたちの全力を。
「ちょ、ちょっと!? な、何バカなこと言ってるのよ!? スピー! お、オジサマの力を試すって、それは昨日パパと戦ってさんざん証明したじゃない!」
ネルトと姉妹のいる訓練場の中。
予期せぬ妹スピーリアの発言に金髪ポニーテールを揺らしながら食ってかかる姉パフィール。
「……? そうだけど?」
「そ、そうよ! ……って、ええっ!?」
だが当の妹は、もちろんわかっているとでも言うように、きょとんと小首を傾げた。
「ん? どうやら誤解がある。パフねえ。試したいのはネルおじじゃなくて、わたしたちの力」
そう前置きして、スピーリアは自分の考えを滔々と語りだした。
「まず、パフねえとわたしの実力は伯仲している」
だからこそ日々切磋琢磨して競い合っていけるが、それだけでは足りないと昨日気がついたとスピーリアは言う。
「わたしは、高みが知りたい。わたしたちが知るかぎり一番強かったハワぱぱ――がフィーままの言う切り札のスキルを使っても力でねじ伏せられた最強のネルおじと全力で戦うことで」
そこでギュッと剣を握る手に強く力をこめた。
「わたしたちが到達するべき高みを、頂を知りたい。わたしたち自身の身をもって」
「ふーん。スピーの考えはわかったけど、わたしたち……ね? なーんか当然のごとく、あたしもやることになってるみたいだけど?」
「やらない……の……?」
「ふふふん! やるに決まってるでしょ! 同時にいくわよ! あたしは右! あんたは左からよ! いいわね! スピー!」
「ん……! パフねえ!」
大好きな姉に突き放されたと思いかけ、おどおどとうろたえかけたスピーリア。
そんな妹にしてやったりといたずらっぽく笑いかけると、パフィールは床に落ちた魔力コーティングされた訓練用の剣を拾い上げ、ヒュン、ヒュン……! と気合いを入れるように素振りをはじめる。
「ふーん? 俺が高みとか頂とかはよくわかんねえけど、それがパフとスピーの望みだって言うんなら……よっし! いっちょやってやるかぁ!」
それに応えて気合い十分のいまだ部屋着のままのネルトは、バシッとこぶしを手のひらで打ち鳴らした。
そして、二人と一人が相対する。
「スキル! 〈肉体超活性〉!」
「スキル。〈精神超感応〉」
ゴウッと身の内より迸る赤い魔力がパフィールの体を包みこんだ。
同時に、スピーリアの体から青白いもやのような魔力が周囲に漏れだす。
「へえ……! それがパフとスピーのスキルか……! ふたりの両親、ハワードとフィーリアのスキルをさらに発展させた、潜在能力ならそれ以上だっていう……! 話には聞いてたけど、すげえな……!」
一定の距離を置いて、剣はいらないと言った素手のネルトと、それぞれに剣を構えた姉妹が対峙する。
「さあ、オジサマ! いまのあたしの全力! 受けてみなさい!」
叫ぶパフィールの両腕と剣、そして両脚を赤い魔力が覆い、ひとまわり大きく四肢を鎧い刃をまとうと強靭な大剣を形づくった。
父ハワードのあくまで肉体の内側のみにとどめ強化するそれと違い、迸る魔力を自らの肢体の外にまで広げ固定しさらなる強化を成す――これが潜在能力ならば父のそれを超えるパフィールのスキル〈肉体超活性〉。
「いくわ! スキル! 〈肉体超活性――戦鎧〉!」
まるで一陣の疾風となって、強化された脚力でゴウッと迫りくるパフィール。
「へへ! さすがにすげえ迫力だな! こりゃあ気を引き締めねえ、とっ!?」
そのとき、ぐりんとネルトの顔が突然強制的に別方向に向けられる。
「スキル。〈精神超感応――掌握〉。わたしを見て」
その視線の先には、青白い魔力をまるで燐光のように放ち別方向から迫りくるスピーリアが映っていた。
おそらく同じ読者さまだと思いますが、いつも、いいね! いただいている読者さま、ありがとうございます。そうした反応をいただけるのは励みになります。
ブクマや評価いただいた読者さまもありがとうございます。この場を借りてお礼申し上げます。引き続きお楽しみいただければ幸いです。




