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寝すぎ17 娘姉妹の部屋着と、懇願と度量。……なな、なんで、しし下っ!?

 コン、コン。


「オジサマ? いる? 入ってもいい?」


「……おう! いいぜ! パフ!」


 パチリと目を開くと、ネルトは身を起こし部屋のベッドから立ち上がる。


 妹のスピーリアと同じで、「あたしも部屋着に着替えるから」と告げるパフィールを見送ったあと、ネルトは今夜からの寝床の具合をさっそくスキル〈睡眠〉を使って確かめていた。


 その結果は、文句なしの満点。万能究極化したスキル〈睡眠〉の安眠系派生が必要ないくらいにすばらしいものだった。一応使ったけど。


 ガチャ。


「お、お邪魔するわね……!」


 そんなスキルのおかげもあり短時間でお目々ぱっちり、頭はすっきり、疲れもすっかりとれたネルトのもとに現れたのは――部屋着のパフィール。


「どう、オジサマ? お部屋は気に入った? あ、あとあたしのこれ、ど、どう……かしら!」


 ネルトの前でそう言ったパフィールは頬を赤らめもじもじしながら、ゆるく巻いた金のツインテールを照れ隠しのように軽く指でいじる。

 

 身につけているのは、ふわもこな材質のピンクと白の縞模様なゆるめのパーカーに、おそろいの色の短めのショートパンツ。


 そこから伸びる妹スピーリアよりもややむっちり気味のすらりとしたまぶしい生足まで一とおり堪能すると、ネルトは右親指を立てる(サムズアップする)


「おう! すっげえ可愛いな! 色もパフの髪や瞳の色に合ってるし、どっちかというとかっちり気味だったさっきまで着てた白い制服とのギャップもあって、すげえ新鮮だぜ!」


「そっ……!? そ、そそそそそう……!? あ、ありがと……!」


 思った以上に真正面から褒められて、異性慣れしていないパフィールの顔がボッと赤く染まった。


「お、おう……!」


 そのガチ目な反応に、同じく青春時代を文字どおり寝て過ごした異性慣れしていないネルトも頬を赤くして言葉につまって黙りこむ。


 しばし赤い顔で見つめ合うふたり。口を開き、一歩前に進み出たのは、同時だった。


「お、オジサ――」


「ぱ、パフ――」


 ガチャッ!


「パフねえ? ネルおじ? ここ?」


「〜っ!? す、スピーっ! あ、開ける前にの、ノックくらいしなさいよっ!?」


 思わず、踏み出しかけた一歩をぱふささっと目にも止まらぬ速さで下がったパフィール。


「ん。ごめんなさい。……ふたりが見つからなかったから」


 そんな姉のうしろから、少しだけバツが悪そうにそう言いながら、妹スピーリアがひょっこりと顔を出した。

 

「おお……!」


 その姿を見たネルトは、思わず感嘆の息をつく。


 スピーリアが身につけているのは、姉とお揃い、けれど色違いなふわもこな材質の水色と白の縞模様なゆるめのパーカー。


 かなりのオーバーサイズらしくワンピースのようにダボっと着ていて、その幼気(いたいけ)な愛らしさをいや増している。


「…………んん?」


 だが、その姉よりもやや細くしなやかなまぶしい生足を目で堪能していたネルトは、ふと気づいた。


 ――なんかちょっと、()()()()てないか……?


 そのネルトの疑問に答えるように、姉パフィールがわなわなと震えながら、妹に向かって叫びだす。


「すすす、スピーっ!? ああ、あんたっ!? な、なななんで下っ!? はは、履いてないのよっ!? おお、オジサマの前でっ!?」


「うえぇっ!?」


 火の出るように顔を真っ赤にしてうろたえる姉と、素っ頓狂な声を上げるネルトの前で、妹のスピーリアはきょとんと小首を傾げる。


「ん? 下はちゃんと、履いてる。ほら」


 ――み、水っ、し、縞っ!?


「わああああぁっ!? み、見せてんじゃないわよぉぉっ!?」


 すぴっと妹が無防備にたくし上げかけたパーカーの裾を姉がぱふしゅとすばやく引き下ろした。


 ――その一瞬でちらりと覗いた下着(ぱんつ)の柄がネルトの目にばっちりと焼きついてしまったのは、まあ不可抗力だろう。


 パフィールははあっ、はあっと荒く息をついてから、やがて。


「うう……。もういいわ……。スピー……。あんたがそれでいいんならね……」


「? ん。わかった」


 いまのやりとりで少しずれてしまった着衣を直してあげながら、あいかわらずわかっていないようにきょとんと首を傾げる妹に向けて、「仕方ないわね」と困ったものを見るようにそう笑いかける。


 それから、わざとらしいくらいに大声を張り上げた。


「あ! いっけない! そろそろ夕食の時間じゃない! ねえ、玄関の受け取り口にそろそろ下層階にあるレストランに頼んだ料理が転送されたころだと思うから、悪いけどスピー? ちょっと取りに行ってくれる? あたしはどうしても、もう少しオジサマに説明しないといけないことがあるから! お願い!」


「ん。わかった。パフねえ。とってくる。ネルおじ、またあとで。このマンションのレストランの料理は美味しいから、楽しみにしてて」


「おう! ありがとな! スピー! 楽しみにしてるぜ!」


 そうして姉にこくりとうなずき、ネルトにひらひらと手を振ると、すぴぷるるんと解放されてさっきまで以上にふたつのふくらみを揺らす妹スピーリアはくるりと身を翻し部屋を出て行った。


 その足音が遠ざかっていくのを耳にしてからパタンとパフィールは扉を閉めると、真剣な顔でくるりとネルトに向き直った。


「……オジサマ。正直、驚いたでしょ? ああいう子なの。スピーって。たぶん生まれ持ったスキルのせいもあると思う。それでいろいろ苦労してたり、つらい思いしてきたのもずっと見てきたし。ちょっとズレてるっていうか、マイペースっていうか。でも! すっごく優しくて、いい子なのっ! だから……!」


「へへっ! もっちろんわかってるぜ! パフ!」


 その懇願するようなパフィールに向けて、ネルトはニカッと笑いながら右親指を立てる。


「俺を誰だと思ってるんだぁ? パフとスピーの両親ハワードとフィーリアの親友にして、20年の眠りの果てに超すげえ力と万能究極化したスキルを手に入れた超新星男、ネルトさまだぜ? 可愛い親友の娘姉妹がちょっとズレてようが、無自覚無防備でスキンシップ過剰だろうが、全部まとめて俺が受け止めてやろうじゃねえか!」


「お、オジサマっ……!」


 ――感極まったようにその母親ゆずりの赤い瞳を潤ませる姉パフィールに渾身のドヤ笑顔を向けるネルトは、まだ知らなかった。


 まさか今夜さっそく、これからその度量と覚悟がその限界まで、いや()()()()()()試されることを――それも2度、別の形で。


「おう! 大船に乗ったつもりでいやがれ! ナッハッハッハ!」


 ――上機嫌で高笑いを上げるネルトは、まだ何も知らなかったのだった。

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