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クリスマスに奇跡は、もう起こらない  作者: 東郷しのぶ


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2/5

伝説の少女

 結局。

 杏は、少女をアパートの自分の部屋へ運び入れてしまった。正体不明の少女は、驚くほど軽かった。杏が誰の助けも借りずに、一人で背負えてしまうほどに。

(この子、ガリガリに()せている――)


 杏は部屋を暖かくし、少女を布団で寝かせた。自分が持っている物なんか、全て安物だ。いくら汚れたって構わない。


 病人の熱をなんとか冷まそうと杏がアタフタしていると、うっすらと少女が目を見開いた。

天使(アンジョ)様?」

 そう一言、口にしただけで、少女は再びウトウトと眠りに入る。


(私のことを、アンジョ――天使だなんて)

 どんな勘違いをしているのやら?


 杏は口角を上げた。それは苦笑いではあったが、紛れもなく、久方ぶりに杏が浮かべた笑みであった。


 杏は、ひたむきに看病した。

 温かいタオルで身体を拭いてやり。

 お粥を作って、食べさせて。

 薬も飲ませた。


 2日ほど経ち、少女の熱は下がった。

 杏は少女へお風呂を使うように言ったが、彼女はどうしたら良いのか分からないらしく、まごついている。なので杏は、一緒にお風呂へ入った。二人とも、当然ながら裸だ。シャワーから湧き出るお湯に少女はビックリし、目を丸くしている。

 少女の身体を洗ってやる。痩せてはいるものの、胸はそれなりにある。年齢は十五、六歳だろうか?


 お風呂から上がる。杏は少女へ、自分の服を着せてやった。杏のほうが背が高いため、ぶかぶかだ。大きめの服の中にチンマリと身体が入っている少女の様子は、汚れが落ちて身ぎれいになったこともあり、何とも言えず可愛いく見える。


「貴方の名前は?」

「わたしの名はマリアと申します。天使(アンジョ)様」


 少女の――マリアの返答に杏は衝撃を受けつつ、心のどこかで納得もしていた。

 マリアは、訥々(とつとつ)と語った。


 司祭(パードレ)様は青い瞳のお方で、彼の教えに従い、村の皆が切支丹(キリシタン)になったこと。

 自分は孤児で、司祭様に育てられたこと。

〝マリア〟という名も、司祭様が付けてくれたこと。

 司祭様が流行病(はやりやまい)で亡くなられたこと。

 御領主様が切支丹(キリシタン)の教えを禁じたこと。

 村の皆はやむを得ず信仰を捨てたが、自分は――


「司祭様が、お亡くなりになる前に仰ったのです。『マリア。辛いこともあるでしょうが、負けてはいけませんよ。天使様は、いつも貴方を見守っておられます』と」

「…………」

「『天使様に、お会いしたい』――わたしは牢の中で、一生懸命にお祈りしました。そしたら、本当にお目にかかれるなんて……」

 マリアが嬉しそうに、微笑む。


 杏の表情は動かない。しかし、心の中は大荒れだ。

 やはりマリアは江戸時代に生きていた、あの伝説の少女なのだ。

 タイムスリップ――

 そんなことが、現実にあり得るのだろうか?


 でも取りあえずは、マリアの間違いを正さなくてはならない。

「マリア。私は天使では無いよ」

「え?」


 マリアは戸惑いつつも、諦めきれないように訊いてきた。


「そ、それでは、あなた様のお名前は――」

「私の名は〝(あんず)〟」

(あんず)――やっぱり〝天使(アンジョ)様〟です!」


 マリアの瞳がキラキラと光る。マリアは容姿は可憐だが、役人どもの責めにも信仰を曲げなかったことから分かるように――

(頑固な性格らしい。誤解を解くのは、ひとまず棚上げにしよう)

 杏はそう考えた。

 少女マリアはキリスト教関連の言葉について、ポルトガル語をもとに、日本式の発音をしています。


・天使――アンジョ

・司祭――パードレ

・天国――パライゾ

・神――天帝(デウス)

・キリスト教徒――切支丹(キリシタン)

・クリスマス――降誕祭(ナタラ)

 などとなり、教会と関わりながら育った杏も、これらの単語の知識を多少は持っています。

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[一言] マリアちゃんきゃわわ( ˘ω˘ )
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