7
「フレッド様、どうされましたの?」
「ティナ、キスしていいかな?」
「ふぇ!?」
「何だか、アロイスにヤキモチ妬いたみたいで、今すぐに君とキスがしたくなった。」
彼が嫉妬を包み隠さずに言ってくれたことにティナは嬉しくなったのでチュッ!とフレッドの口唇に自分の
口唇を重ねた。
「ふふ。フレッド様が妬いてくださるなんて嬉しいです。」
「もう一度、君からして…?」
「はい…。」
最初は浅い口唇は徐々に深くなっていく。ティナの後頭部はフレッドの手で抑えられていて、簡単には離れられない。
「幸せすぎる…ティナ、愛しているよ…。」
「はっ…フレッド…様…く、苦し…んっ…。」
息継ぎも忘れてふたりは口唇を重ねる。
どれだけ口づけていたのだろうか、会場からは新しく音楽が流れ始めた。
「はあ…幸せだよ…。」
「フレッド様、私も幸せですわ…。」
「そろそろ会場へ戻ろうか?」
「あの…。」
「ん?」
「も、もう少しだけフレッド様を独占していたいです…。」
「ティナ、俺をどれだけ惚れさせたら気が済むの…?」
フレッドはティナを膝の上に乗せて再び口づけをして甘いひと時を過ごした。
そしてパーティ終了後にティナとフレッドは所謂初夜を過ごすことになっていた。
夫婦の寝室は既に完成していたので湯浴みを済ませ部屋に入った。
「ティナ、君に無理強いするつもりはないから、嫌なら君の心の準備ができるまで待つよ…?」
「フレッド様、嫌なはずがありませんわ…。昨日、婚姻を決めてから、私の心は準備できておりますわ…。」
ティナがフレッドに抱きつく。薄い夜着のせいかお互いの体温が直に感じる。
フレッドは慣れたようにティナを横抱きにしてベッドへ寝かす。ふたりの重みで沈むベッド。
「辛くなったら、言って…手加減できそうにないけど…。」
「はい…。フレッド様、愛しています…。」
「ティナ…愛しているよ…。」
ふたりは口唇を重ねた。フレッドは壊れ物を扱うように優しく丁寧にティナを愛し、ティナもそれに応えるように愛を囁き、彼を受け入れるのだった。
ふたりが寝入ったのは空が白み始めた時刻だった。
「おやすみ、俺のティナ…。」
フレッドはティナを優しく抱きしめながら、眠ったのだった。
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
ティナは王宮で王太子妃としてまた次期王妃として公務の一部を担いながら、フレッドを公私ともに支えていた。
学園を卒業してから僅か3ヶ月でアンヌの婚姻式は行われ、ティナとフレッドは王太子夫妻として式に参加した。そんなふたりの式も目前に迫っていた。
今日は王妃とゆっくりお茶をしているティナ。彼女は少し愚痴を漏らした。
「ウエディングドレスは卒業前に着た物でいいと言いましたのに…。」
そう、家族のみが参加した式で着たドレスをそのまま着ればいいと思っていたティナに周りから「新しいのをお作りいたします!」と声があがったので、ウエディングドレスを新調したのだ。
「あら?あれはフレッドの個人資産からだから気にしなくていいのよ?今回の式で着る物に関しては予算があるのだし、今回のだってクリスティナちゃんの良さが一段と際立つデザインだもの。」
「ありがとうございます、王妃様。」
「ねえ、そろそろ私的な場所ではお義母様と呼んでちょうだい?」
「お、お義母様…。」
「うんうん。マリーアンヌが嫁いでしまったから寂しかったのよ…それにクリスティナちゃんがフレッドの相手で私はとても嬉しいのよ?」
「お義母様、ありがとうございます。」
「ティナ、母上。」
かなりの時間お茶をしていたのだろう。フレッドがティナを呼びにきた。
「母上、父上が呼んでおりましたよ?だから、ティナは返してもらいます。」
そう言ってフレッドはティナを抱きかかえる。
「ふぇっ!?フレッド様!?」
「あら?嫉妬なの?その表情は陛下にそっくりだわ。ねえ、クリスティナちゃん?」
「なんとでも言ってください。ティナ、行こう?」
「は、はい。お義母様、失礼します。」
ティナは一礼してフレッドと歩き始める。
「自分がここまで嫉妬深いとは思わなかった…。
母親に嫉妬って…。」
フレッドは耳まで赤くしてティナを見つめる。
「ふふ。陛下も王太子時代に王妃様と王太子妃様のお茶会が長引くといつも迎えにきて連れていってしまったそうですよ?」
「つまり、この行動は父上譲りということかい?」
「否定はしませんが、お義母様やアンヌ様曰く、王族の愛は重いそうですからね。」
「ティナは俺の愛が重いと感じているの?」
「いいえ。ちっとも。嬉しくてたまらないですわ。」
繋いでいた手を強く握るティナ。
「ティナは本当に可愛くて困る…。」
フレッドは愛しさが止まらず、ティナの額に口づけをするのだった。
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
「王太子殿下、王太子妃殿下、バンザイ!」
ある空が澄み渡る日、ふたりの式が執り行われた。
パレードを行い、王都を周っている。
「王都ってこんなに活気があったのですね。」
「ああ、父上…今の陛下の治世は後世に語り継がれるほどに素晴らしいからね。」
「それでは、フレッド様はもっと研鑽を積まなければなりませんね?貴方様のことも後世に語り継がれてほしいですから…。」
「俺だけでなく、君のことも語り継がれることが俺としても嬉しいんだが?」
「私もですか!?」
「そうだよ?だって、俺達はふたりで支えあっていくのだから。」
「では、私もより一層研鑽を積まなくてはなりませんね。」
国民へ手を振りながら、ふたりで未来の話をする。婚姻したのは半年程前なのにやっと実感が湧いてきたティナだった。
披露宴パーティも終わり、装いを解くと気分がいくらか楽になった。
「今日は気を張って疲れただろう?」
「フレッド様こそ、お疲れでしょう?」
「ティナに比べたら問題ないさ。今日はもう休もう?」
「はい。おやすみなさい、フレッド様。」
「おやすみ、俺のティナ。」
フレッドの腕の中でティナは小さく寝息をたてた。
ー翌日ー
ティナは調子があまりよくなかった。
「ティナ、大丈夫かい?」
「ええ。少し疲れが溜まったのだと思いますわ。」
「そうかい?今日はゆっくりしよう?」
「はい…。」
しかし、翌日も体調が思わしくない彼女を心配したフレッドは侍医の診察を受けさせた。
「妃殿下、ご懐妊です。お祝い申し上げます。」
「あっ…やはりそうだったのね。ありがとう。
フレデリック様をここへ呼んでもらえる?」
侍女が「承知しました。」と部屋を出ていくとものの数刻でフレッドがやってきた。
「ティナ!どうだったんだ!?」
「ふふ。赤ちゃんができたそうですわ?」
「赤…ちゃん…?」
「はい。フレッド様と私の…。」
フレッドはティナを優しく抱きしめた。
「俺、こんな幸せでいいのかな…?」
「ええ、私も幸せですもの。」
「ティナ、ありがとう。」
「どういたしまして。さて、落ち着きましたら陛下達にもお報せしなくてはなりませんね。」
「君はまだ辛いだろうから、今日は俺だけで報告を…。」
「フレッド様、朝よりも落ち着きましたの。ですから、報告はふたりで。ね?」
「わかった。」
そして、ふたりで謁見の間へ入り国王と王妃に報告をした。
「そうか、そうか。ふたりともおめでとう。孫の顔が早く見たいの!」
「フレッド、クリスティナちゃんおめでとう。
あー、早く会いたいわねー!!」
王太子妃の懐妊の慶事は直ぐに発表され全国民から祝福の声が届き、ティナとフレッドは幸せに包まれた。