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ティナとフレッドの婚約が大々的に発表になった。貴族達は諸手を挙げて祝福する者ばかりだった。
「フレッド様…あの…毎日迎えに来てくださるのは嬉しいのですが、御手を煩わせてはいませんか?」
両想いになってから、フレッドは毎日ティナを迎えに行き、登下校している。
「ティナは俺との登校は嫌かい…?」
「そ、そのお顔はズルいですわ!」
捨てられた仔犬のような目で見てくるフレッドにティナは折れるしかなかった。
「あの、ふたりとも私がいること忘れているでしょ?」
「アンヌ様、助けてください!フレッド様が私が断れないのわかっていてお願いをしてきます!」
「諦めなさい、ティナ。お兄様の愛は重いわよ?」
「ティナ、学園や城では節度を持っているのだから、馬車では大目に見て。」
「はう…分かりましたわ…。」
学園に到着し、馬車を降りる。
「クリスティナ…サージス嬢。」
「…パーティでは、本当に申し訳なかった!」
アロイスが現れて勢いよく頭を下げ言葉を続ける。
「俺は昔から何でもできるサージス嬢に勝手に劣等感を抱いていた。俺の方が家格は上なのにって何度も思った。学園へ入ってからも、君は成績優秀で婚約者なのに、こんなにも差ができることへの焦りもあったんだ。
だからといって、俺が君に対してしたことは許されることではないだろう。母や姉の君に対する態度も今考えれば常軌を逸していたと思うし…。本当に申し訳なかった!
謝って許してもらえるほど甘くはないのはわかっている。だから俺は学園を卒業したら爵位を継いで頑張ってリストス家を繁栄させていく姿を君に見てほしい。」
「リストス子息、頑張ってくださいませ。お力にはなれませんが、応援しますわ。」
アロイスの真摯な言葉を受けてティナは彼に笑顔を向けた。
「はあ…ティナがこう言ってる以上は俺は何も言えないな。アロイス、幼馴染として応援している。」
「アロイス、頑張りなさい。」
「フレデリック殿下、マリーアンヌ殿下、サージス嬢ありがとうございます。」
アロイスは一礼して去っていく。
「あれなら大丈夫そうですね。」
「やはり、アロイスが心配だった?」
「そうですね…幼馴染として彼がまともになってくれて嬉しいとは思いますわ。」
「そうか。」
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
アンヌは学園を卒業と同時にジェイスとの婚姻が正式に決まった。卒業式の3日後には出立し到着次第正式に夫婦となることになった。
「ティナは私とジェイス様の式には王太子妃として参加するのよ?」
「えっ!?」
「えっ!?って、だってそうでしょ?お兄様だって、きっと婚姻を早めるはずよ?夫婦になるのだから、当たり前よ?」
「夫婦…」
「そう、夫婦よ。」
「…ということがありましたの。」
ここはフレッドの私室。妃教育の後にお茶をしていたときにティナは昼間の話をした。
「婚姻のタイミングは早めるつもりはあった。
現に君の妃教育は進捗がいいと聞くからね。」
「新しいことを学べるのは楽しいですから。」
「はは。君らしいね。ティナは婚姻する時期についてはどう思う?」
「そうですね…式については準備期間が必要ですし、貴族や国民へのお披露目もございますけど、できるなら直ぐにでも夫婦になっておきたいと思いますわ…。
私…その…今以上にフレッド様と一緒にいたい気持ちもありますので…」
「理由が可愛すぎだろ…ティナ、こっちにおいで?」
向かいに座っていたティナは大きく腕を開いたフレッドの胸に飛び込んだ。
「フレッド様…。」
「ねえティナ、提案なんだけど…。」
ー·ー·ー·ー·ー·ー·ー
やはりティナの妃教育は卒業前に終わってしまった。後は婚姻後に王妃から王太子妃や王妃の仕事を教わるだけになった。
「ティナ、準備は出来たかい?」
「はい。」
卒業前日、ティナとフレッドは数名の侍女と侍従と大聖堂にいた。ふたりは卒業前に婚姻を済ませることにしたのだ。チャペルにはふたりの家族のみ参列していた。
フレッドが控室の扉を開けると純白のドレスを纏ったティナが微笑んでいる。
「…」
「フレッド様?」
「!す、すまない…。余りにも美しくて…」
「フ、フレッド様も素敵ですわ!」
「君は女神が遣わした天使だよ?さて、行こうか?」
「ふふ、そうですね。」
ティナとフレッドはチャペルへと足を進め、笑顔で入場した。
「私、フレデリック·ヴァン·ルーディーンはクリスティナ·サージスをいつ如何なるときも支え、愛することを女神の前で誓います。」
「私、クリスティナ·サージスはフレデリック·ヴァン·ルーディーンをいつ如何なるときも支え、愛することを女神の前で誓います。」
ふたりは宣誓する。
「この者達に女神の祝福があらんことを…。」
ふたりは夫婦として名を連ねることになった。
ー卒業パーティ当日ー
会場では生徒達がふたりの入場を待ちわびていた。
「フレデリック·ヴァン·ルーディーン王太子殿下、並びにクリスティナ·ヴァン·ルーディーン王太子妃殿下のご入場です!」
彼女は淡い金糸の刺繍が施されている青系のドレスを身に纏っていた。胸元と耳元にはタンザナイトで作られた飾りが着けられている。
国王が昨日女神の前で宣誓したことを参加者達に告げると祝福の拍手に包まれる。
「皆、急な発表になってしまいすまないが、私はクリスティナのことを愛している。まだまだ若輩ではあるが、これからも我々王族を支えて行ってほしい。」
フレッドの宣言に更に拍手が起こる。
音楽が流れてフレッドのエスコートを受けてティナが、国王のエスコートを受けてアンヌが踊り始める。
「やはり、フレデリック殿下とクリスティナ殿下のダンスは素敵ね…。」
「この国は安泰ですわね。」
ダンスが終わるとティナとフレッドの周りには貴族や卒業生達が集まる。
「殿下、お祝い申し上げます。おめでとうございます!」
「「おめでとうございます!」」
皆口々に祝いの言葉を述べる。その中に…
「フレデリック王太子殿下、クリスティナ王太子妃殿下、お祝い申し上げます。」
アロイスがいたのだ。
「リストス子息、ありがとう。貴方も卒業おめでとう。」
「ありがとうございます。」
「フレデリック殿下、私がこんなことを言うのは筋違いなのはわかっておりますが、クリスティナ殿下を…」
「アロイス、大丈夫だ。俺は昔からティナ一筋だからな。お前も少ししたら侯爵となるのだから、背筋を伸ばせ。当主となるにはそれなりの態度が必要だぞ?」
「はい、殿下。家臣としてより一層精進して参ります。」
「もう爵位を継ぐのね。おめでとう。」
「ありがとうございます。」
ティナはアロイスに近づき周りに聞こえないように一言伝えた。
「アロイス様、頑張ってくださいませね?」
「はい。」
アロイスは一礼して去っていった。
「何を話したんだい?」
「応援しただけですわ。だって、リストス子息の表情は昔と違っていますから、それにもう同じ過ちは繰り返さないでしょう?」
「何故言い切れる?」
「ふふ。そんな気がするだけですわ。」
ふたりは見つめ合うとフレッドが急にティナの手を引いて歩きだし、バルコニーへ出た。