第五話「触れる真実」
6月22日午後。晴れ。
『うるさい!ばか!ナイトには関係ないでしょ!もう知らない!!!』
と言われて姫様が家を出ていった後に僕が外へ出て探しに向かった。
「こっちで女の子が溺れてるぞ!」
その声を聞き、そっちに向かって走った。
川の方をみんなが見ていたのでそっちを見てみると、そこには女の子が!…でも姫様では無い。けど助ける他無かった。
他のみんなはただ心配そうに見つめるだけで…まるで…嫌な貴族を見てるようだった。
迷わずに大急ぎで川に飛び込んだ。
「今助けるからな…!」
女の子を掴んで川岸に上がろうとしたが何か引っかかって止まった。
「?!」
一度川に顔をつけてみようとするけど、汚すぎて目が開けられない。
「っ…ごめんよ!」
女の子の足元に手を入れて確認する。ん、藻だ。藻がへばりついてたから女の子が引っ張られていたんだ。
その藻をなんとか振りほどいて女の子を川岸に上げた。
その瞬間、傍観者が一気に女の子の周りに集まる。
「おぉ、大丈夫か?!」
「息はあるか?!」
「良かった、無事だ!」
口々に話す人達を見て僕は何かが崩れる音が聞こえた。
「…何が無事だだよ。…僕が通りかかって行かなかったらこの子は死んでたかもしれねぇんだぞ!」
その言葉の重みを伝えようとする。
「でもなぁ、俺たちだって助けたかったよ、でも溺れるからなぁ。助けに行って溺れてたら同じだろ?」
「そんなに深くねぇよ!そもそも助けたいなら行動するだろ!何か別の策を考えたりとか!なのにお前らは心配だけして、それ以外は他人事!そんな奴が女の子の命なんか救えるわけねぇし救う気もねぇだろ!」
その言葉を聞いた傍観者たちは口々に愚痴を言い始める。
そうだ、僕はこんな世の中が嫌いだ。まるで他人のような感じになって、助けて貰えず…。
『お母さん!お母さん!』
雨の降る中に小さな男の子が一人とその傍にはお母さんのような人が一人。
『…良貴…。』
『誰か!誰か助けて…!誰か…!!』
必死に男の子が通りかかる人に助けを求めてるが皆は振り払って歩いていく。
『お母さぁぁぁん!!』
その声とともにガラスが割れて声が聞こえた。
「…りがとう。」
その声は現実だった。
先程、溺れてた女の子がお礼を言ってくれていた。
「…どういたしまして。君はもう川に溺れるようなことはしちゃダメだよ。」
「うん…。」
そうして女の子の笑顔を見たあとに僕は颯爽に傍観者たちの前から消えた。
そして家に帰る。…あれ、そういえば何か探してた気が。あ。姫様!
「ナイト…。」
「あ、姫様…。」
なんだか気まずい空気が流れる。
「…えっと、姫様に言ってはいけないことを言ってしまってごめんね。」
「ううん、いいの。やっぱ、言っておかなきゃならないと思って、私の親のことなんだけど、実はお父さんは病気で亡くなって、お母さんは家庭を全て捨ててお金を少し多く持って逃げ出したの。」
その言葉を聞いて時が少しばかり止まる。
「それで私にはね、お兄ちゃんがいるの。でもお兄ちゃんはお母さんが出てった後に執事さんやメイドさんを連れていなくなっちゃったの。だから一人だったってわけなの。」
「…待って、僕を雇ったあのおじさんは?」
「多分、お兄ちゃんの執事さんかな。」
なるほど。と思って話を聞く。
「やっぱり、私、一人は面白くない!ナイトともっと楽しい日々を過ごしたい!」
…そう言ってくれるのがとてもありがたかった。
「ありがとう。これからもよろしくね、姫様。」
そして僕らは夕飯の準備を始めた。
その影にて…。あの時の公園での怪しい人影が。
「…岸良貴…。」
そう呟いた後に静かに立ち去っていった。