第三話「夜のトイレはお化けが出る?」
6月21日。雨。
「ぅぅぅぅ。」
夜の暗い中、姫様はテレビを見ていた。
「…ぅぅ。」
『がおぉ!!!』
テレビの中のゾンビがカメラに向かって襲いかかる。
「いやぁああぁ!」
その悲鳴と同時に部屋の電気が点いた。
「何やってるの、こんな夜に。」
僕が呆れたように、クッションを力強く抱いて怖がってる姫様に話しかける。
「だ、だってぇ。」
「怖いのになんで見たのさ。」
「こ、怖いもの見たさとかないの?!」
クッションを上下に振って姫様は共感を求めてくる。
「僕は怖いものないから大丈夫だよ。」
「む、むぅぅ…!」
頬をプックリ膨らましてこっちを睨みつけている。なんか、面倒なことになってきたなぁ。
「はい、じゃあ、もう夜なんで、僕帰りますね〜。」
さっさと退散しようとしたその時、服を後ろからガッシリと掴まれる。
「え?」
さっきまでクッションを握ってた姫様の手が今は僕の服の後ろを掴んでいる。
「ひ、姫様、離して。はな、…?!」
姫様の力が半端なく強い。全然振りほどこうとしてもほどけないほど、強く握られていた。
「はぁ…。帰れないならどうしたらいいの?姫様。」
「泊まって。」
ワガママ…!家に帰ってからゆっくりと推しの配信とか見ようと思ってたのに…。
ワガママは聞くしかないと思いながら姫様の目線までしゃがみこむ。
「姫様、とりあえず、お風呂に…。」
「一人は嫌っ!」
ワガママすぎる、けど流石に10歳の姫様と一緒にお風呂はマズイ。
「じゃあ、お風呂場の外で待ってるから。」
「…んん、分かった。」
とても嫌そうな顔をしていたが渋々了解してくれた。
そして姫様がお風呂に入り、僕は外で待つ。
水の音が小さく聞こえる。ちなみに、いつもはお風呂に入る前に僕は家に帰る。それが普通なんだが今日は違うみたい。
しばらくしてお風呂場からパジャマを着て髪の毛をタオルで拭く姫様が出てきた。
なんか、その姿はいつもより可愛くて…。
って、何考えてんだ。
「それじゃあ、寝ますか。」
「じゃあ、その前に…!」
まさか、また何かワガママを言うのかと思って少しだけ身構える。
「ジュース!」
なんだそんなことかと思い、冷蔵庫からジュースを取り出して姫様に渡す。
「ゴクッ…ゴクッ…。」
なんか、凄い飲むなぁと思いながら姫様を見つめる。
「ぷはぁ。おいちい!さ、寝よ。」
言われるがままに姫様のベッドへと入った。
あれ、なんで入ったんだ。なんて思いながら横の姫様を見てみるともう既に寝ていた。
早いなと思っていると…。
「…トー!ナイトー!」
姫様の大きな声で目が覚める。どうやらいつの間にか僕も寝てしまっていたらしい。
「なに?姫様、こんなまだ…。」
スマホを確認すると午前2時半。
「まだ2時半じゃない。なにか用なの?」
「トイレ…。」
あ、そういえばお風呂を上がった後に怖さも増していて喉が乾いたからジュースをがぶ飲みしてたんだ。だからこうなったのかと心の中で僕は冷静に思っていた。
「分かったよ、トイレね。」
そしてトイレの前でじっと待っていた。
「いるー?」
「いるいる…。」
ホラーを見たあとの姫様はどうしても怖い思いをするらしい。てか、一人の時はどうしてたんだろう。そんなことはいいかと思った。
それより、どうせなら驚かせてやろうかなと思ってバスタオルを上から羽織って動きを気持ち悪くして待つ。そして出てきた瞬間に
「ぐぁぁぁぁあ!!」
「きゃぁぁぁ!!」
姫様が驚いて咄嗟に前に出てきた姫様の拳が僕のみぞに入り込み、僕は倒れ込んだ。
そしてその後は僕は廊下で姫様と寝てた。
今度から姫様を驚かす時は気をつけた方がいいと思った日だった。