第二話「ワガママプリンセス」
6月20日。晴れ。
朝から僕は格闘している。
…もちろん、誰かと戦ってるわけじゃない。戦っているのはこの朝食を作ること。
料理を今までしたことがない僕だから…。
「くそっ!!」
「…うるしゃいんだけど。」
姫が起きてきた。まぁ、もう8時だからそりゃそうか。
「あ、ごめん。よく寝れた?」
「まぁ、うん。」
あんまり反応が良くないから打ち解けれてないんだろうなぁと僕は実感する。
「あ、朝ご飯、これ出来たよ。」
見た目がグチャってしまってるがこれはスクランブルエッグにウインナーたち。黒すぎ?しょうがないだろ。
姫様は一口も食べずにため息をついた。
「いらないから、今日はもうこれ食べる。」
そう言って姫様は昨日買ってきた静岡限定のお菓子をむしゃむしゃと食べ始める。
「確かに見た目はあれかもしれないけどさ!食べてみてくれよ!絶対上手いし!」
そう言って先に自分で食べ始める。
「…っ!まず。」
「だから食べないって言ったんじゃん。」
結果的に姫様の言う通りだった。
「これからは料理は出前でいいから。」
姫様は呆れたように僕を見つめてから自室へ戻っていく。
「はぁ。」
ちなみに、一日の回転はこうだ。
まず朝起きてから姫様の朝ご飯の準備をする。
そして昼まで洗濯と掃除のあとに昼食を出前。昼から買い物をして出前して掃除して。
その途中で姫様の命令があればそっちを優先しなければならない。
「ねえ。」
来た。この始まり方はきっと命令。
「これ欲しいんだけどさー。」
見せてきたのはサクラケーキ屋のチラシ。大きく丸されていたのはチョコケーキだった。
「分かりました。行ってきます。」
お金を管理している金庫からお札を何枚か取り出して行こうとする。
「あ、待って。私も行く。」
「え?」
これは珍しい。普通、姫様って言えばあれやれこれやれで特に着いてくることも無いはずなんだけど。…って言っても僕もまだ数日しかここにいないから珍しいのか言えたもんじゃないけど。
姫様と電車に乗る。
「まず切符買わないとな。」
「きっぷ?」
切符って言葉も聞いたことない姫様は首を傾げた。
「電車に乗るための紙を買わないといけないんだよ。」
「へぇ。」
ぬいぐるみを持って行ってることに今気づいたけど、姫様だからあまり口出ししないようにしようと思いながら券売機へと向かう。
「子ども用…。」
「大人だもん!」
「え。」
違う違う、別に子どもっぽいとかそういう事を言ってるわけじゃないんだけど。
とりあえずなんとか切符を買ってから電車へと乗り込む。
なんかちょこんと座ってる姫様って普通の女の子だよな。
電車が発車しているとおばあさんが他の車両から移ってきた。どうやら空いてる席を探してるみたい。
「あ、おばあさん、良かっ…」
僕が席を譲ろうとした時だった。
「おばあさん、ここ座って。」
まさかの姫様が席を譲ったのだ。ワガママで自分勝手な姫様が…!
成長したなぁと思ってウルウルしてると膝が重くなるのを感じた。
見てみると僕の膝に姫様が座っていた。
「座りたいから座るね、ナイトのお膝。」
「ええ?!」
結局、僕の膝に乗ることになり、そして買い物を終えたあとも膝に乗られて帰ってきた。
「はぁ…。なんだったんだ。あの時間は。」
姫様の笑顔を見れて少しだけホッとはしたが何の時間だったのか分からないまま帰ってきたせいで僕は疲れ果てていた。
「ナイトー!早くご飯注文してー!」
奥の部屋の方から叫んで姫様が僕を呼び出す。
「ワガママお姫様…。これからどんな振り回され方をするんだ…。」
少し恐怖感もあったが、それが少し楽しく感じたのか期待感もあった。