第十一話「素敵な夏祭り」
7月17日。晴れ。
暑いお昼のこと。
「ねーねー!行こーよー!これ!」
姫様が目の前に差し出してきたのは一つのチラシだった。
「へえ、夏祭りか〜。って、今日じゃねぇかよ!」
「えへえ、気づいたの今日の朝なの。」
「急すぎて褒められたもんじゃないけど、たまにはこういうの、行ってもいいかもな。」
僕はチラシをジロジロと見ながら姫様の意見に賛成する。そのチラシを後ろから笑梨香ちゃんが見に来た。
「夏祭りですか!いいですね!浴衣ならありますよ、あっ、姫様の分も!」
「え!ほんと?!」
「いつ買ったのさ?」
そう僕が言うと笑梨香ちゃんは少しだけ恥ずかしそうにして
「実は、間違えて妹の浴衣と一緒に持ってきちゃって、ちょうどいいかなって。」
照れながら微笑む笑梨香ちゃんがそっと立ち上がって自室へ向かった。
そして、僕らは夏祭りに行くことになった。
当日、夜。
「おー、やっぱ、人気あるから人が多いなぁ。」
「姫様、よく似合ってますよ!ここだけの話、みんなより美しいですよ。」
笑梨香ちゃんが姫様の浴衣を見ながらそう答えた。
「な、ナイト。」
姫様が恥ずかしそうに小さな声で話しかけてきた。
「?どうした、姫様。」
「…に、にあっ…う。」
結局、何も言うことなく笑梨香ちゃんの方へ逃げていった。
とりあえず、何かやろうという話になって、姫様の欲しいものを探していると、射的のところで足を止めた。
「ねえ、ナイト!あれ欲しい!」
姫様の指先にはクマのぬいぐるみが置いてあった。
「あれは難しいだろ…。」
絶対無理だと思った僕は行こうとせず、その代わりと言わんばかりに笑梨香ちゃんが前へ出た。
「私がやります…!」
「えっ!」
そっと銃を構えて笑梨香ちゃんが静かに左目を閉じてじっくりと狙いを定める。
そして、スパンッ!という音を立て、姫様の欲しかったクマのぬいぐるみに的中させた。
「…もしかして、笑梨香ちゃんって…。とんでもない能力の持ち主だったりする?メイドなんかより違う職業の方がいい気がするけど。」
「え?そうですか?私はメイドでいいです。」
メイドでいい。ってなんだよと思いつつも、たくさんいろんなことを楽しんだ。
そして、もうすぐ花火が上がるところだった。
「花火、初めて見る。」
「姫様、花火見たことないんだ。」
「うん、テレビだけ。」
姫様は贅沢はしているものの、こんな感じの人が多いところには連れてきてもらってなかったんだろう。
姫様だから。
「じゃあ、素敵な時間になると思うよ。」
僕が空をじっと見上げるのを姫様は優しく見つめていた。
ちなみに、笑梨香ちゃんはというと、さっきからくじ引き屋で何度も引き続けている。
「またハズレ?!次こそ当てます…!」
負けず嫌いなのが笑梨香ちゃんなのかもしれない。
「もうすぐ花火上がるね。」
「…うん。」
ギリギリのところで笑梨香ちゃんが走ってこっちへやってくる。
「姫様!わたがしゲットしてまいりました!どうぞ!」
姫様にわたがしが渡される。そして笑梨香ちゃんは再びまたくじ引きの方へ行ってしまった。
「おじさん!もう一回勝負です!」
「はは、なんか勝負になってるな。」
その瞬間、ヒューという音がして、直後に大きな花火が打ち上がった。
満天の夜空に散らばる赤い炎。
「…綺麗だね。」
僕は姫様に向かって笑顔でそう言った。
「う、うん。」
姫様は下を向いてわたがしを食べる。その顔は花火のせいか真っ赤に染まっていた。
それがまた可愛く見えたのは内緒の話。
こうして、僕らの今年の夏祭りは終わりを迎えた。来年も同じような夏祭りを期待して。




