第一話「姫様」
6月17日。晴れ。
僕はやることが見つかってない。そう、いわゆる無職。最近、バイトが辛すぎて辞めることになった。
せめて別のアルバイトにはつきたいが、そう簡単には行かない。難しいバイトで低時給なんてやってられない。簡単で高時給なバイトはないものかと思いつつサンセットカフェにいる。
「はぁ。なんでこんなに人生って難しいんだろ。一気に形勢逆転できないかなぁ。…形勢逆転って使うとこ間違えてる気もするけど、それほど切羽詰まってるってことなんだよなぁ。」
大人らしくブラックコーヒーを一杯…は飲めないので、レモンティーを飲む。
そしてスマホでニュースを確認する。
「へぇ、物騒だな。最近は。」
カランカランという来店の音がする。
「いらっしゃいませー…。」
元気の無い店員の声が聞こえた後に突然、来店してきた謎のおじさんらしき人が目の前に座り込んだ。
「ここいいですか?」
「いや、座る前に聞けよ!なんだよ、あんた。」
そんな僕を気にせずにおじさんは
「お主、金に困っとるな?」
「はぁ?初対面で失礼すぎませんか?」
僕の前に一枚の紙をそのおじさんは差し出した。
「なんだよ、これ。」
「バイトの募集だよ。」
よく見てみると細かくするべき事とか書かれている。
やるべきことは姫様の言うこと。か。
「お姫様の執事…ねぇ。なんかなぁ、…ん?!給料高っ!!」
「どうだ?やるか?」
「やる!!!」
この軽率な判断が僕の人生を狂わせることになるなんて今の僕にはもちろん分かるわけなかった。
6月18日。晴れ。
さぁ、ついに姫様の執事とやらになる時が来たけど、どうなるのか楽しみで中へと入る。
「失礼します…。」
「誰?」
女の子が目の前に現れた。小学4、5年生くらいの子だ。
この子が…姫?
確かに服装はピンク感があるから姫な感じがあるけど髪型はロングまではいかないショートでもないボブヘアーかな。
「誰?って聞いてるんだけどー。」
「えと、僕は今日から執事になることになった岸良貴っていうんだけど。」
「騎士…?あー、ナイト!何でもしてくれる人だよね、私の名前は南海来って言うの、よろしくね!」
なんだ?急に心優しくなったけど。
「てか、ナイトって、騎士じゃんか、いや、あの岸って浜辺とかの岸なんですけど。」
「ナイトー、早く来てー。」
…なんだろ、ちょっとめんどそうな場所に来てしまったかもしれない。
そして豪邸の中へと入ると予想以上に散らかっていた。
「な、なんだこの散らかり様は…。」
「え?だって半年も執事が見つからなかったんだもん〜。」
ベッドでゴロゴロとしている海来姫。そして周りにはおもちゃやお菓子のゴミ、何に使うか分からないものなどが落ちていた。
「これ全部掃除よろしく〜☆」
かなり広い部屋を一人で一生懸命掃除し始める。
僕は家事が出来ないわけじゃない。ある程度はできるからここに来たわけだ。
けど、ここまで多いのは聞いてない。一日なんかで終わるわけが無い。
「きっついな。何これ。…何でパンツがこんなとこに…。」
よく分からないところに分からないものが落ちてたりする。そんな家に住む姫様も、世話してくれる人は居ないんだろうか。
そう思った時だった。
「これ買ってきて。」
スマホを僕に見せておねだりしてきた。
「…ん、え?!し、静岡限定のお菓子…?!」
「交通費ならいくらでも出すから。」
そう言って小さなカバンからお金をサラッと出した。
「いやいや、流石に。」
「へぇ、行かないんだ。」
その一言でバイトの募集に書いてあった「姫の言うことを聞く」を思い出した。
「行きます。」
こうして僕の新たな人生が始まった…。それも長い…長い…。