プロローグ
「本日をもって婚約を破棄する!!」
片手をあげて高らかに宣言したのは、私の婚約者であったイーズン殿下。その傍らには笑顔の聖女様。
学院の卒業舞踏会でこんなことが起こるなんて思わなかった周りの者たちがどよめき立つ。
「私は真実の愛を手に入れたのだ。ここにいるリズのお陰で。」
周りの者たちなんて見えていないであろうイーズン殿下は嬉しそうにリズさんの手を握った。
この後起こることなんて理解している。
ハァとため息をたて改めて殿下のいるほうへ目を向ける。
「婚約破棄は承りましたわ。それでは…「破棄しましたね…?」
ごきげんよう。と颯爽と挨拶をしようとした私の声誰かがよぎる。
不思議に思い声を発した主を見ると、満面の笑みで私を見ていた。
そう殿下の隣にいる聖女様が。
「破棄しましたね?」
もう一度満面の笑みで尋ねてくる聖女様に思わず睨みつけてしまう。
勝ったって言いたいってこと…?
心の中にドス黒い感情が芽生えそうになる。
でもここで大声で抗議したらそれこそ彼女の思う壺だ。
笑顔で、そう相手がムカつくくらい笑顔で対応しなければ。
「えぇ。破棄いたしました。」
私の言葉を聞いて聖女さまの瞳はより輝いた。
それほど私から殿下を奪った方が嬉しいのだろう。
これ以上彼らの笑いものになってたまるか。そう思いもう一度改めて挨拶をしようとしたとき
「長かったですね〜ほんと。すっごく苦労しました。でもこれで伝えられます。」
隣に立つ殿下の手を振り払い聖女さまはゆっくりと階段を下る。
手を払われた殿下はあたふたしながら狼狽えていた。
「ほんと。凄く頑張ったんですよ?貴女は素敵な人だったから。」
そんな殿下をよそに私に向かって歩いてくる聖女様。
なにが…起きているの?
淑女らしからぬぽかんとした表情で聖女様を見る。
そんな顔をみた聖女さまはフフっと綺麗に笑った。
「そんな顔も可愛いですね。あぁ、やっと言えます。フィオラ公爵令嬢。私と婚約していただけますか?」
「「……えっ、えーーー?!!!」」
私よりも先に周りの者たちが声を上げた。
私も心の中で呟く。
「(こんなルート、知らないよ〜〜?!?)」