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終編

 崩れ落ちる建物、幾千万の骸の山に鎮座する一人の男。

体の大半が包帯に覆われている、中肉中背の男。

 突然現れて、一瞬のうちに王国も世界も全て滅ぼした、イカれた存在。


「なんで……どういう……どうして……」

「収穫時期だったから、かな?それに、見ていて全然面白くなかったんだ。」


 柔らかな口調でそういう男に、返す言葉を見出せない。


「完璧、無敵、最強、最高。そんな称号に縋っている君じゃ、きっと僕を殺せない。事実、こんな状況でも、ボーッと突っ立ってるしかできてない。」

「意味が、意味が分からない。何がしたい、なんでこんなこと。」

「君ってさぁ。」

「……?」

「薄っぺらいよね。君のストーリーを文字数で言ったら2040文字だよ。原稿用紙6枚分。ヒロインの名前も覚えない。一人を決める覚悟もない。ぼんやりとした称号を偉そうに振り翳して遊んでる。子供みたいだ。」


 何を言われているのか、責められているのか、それも全然分からない。何も考えたくない。


「だから、ちょっと叩かれたらすぐ折れる。ヒロインが死んだからなんだよ。世界が滅んだからってなんなんだよ。そんなので折れるなんて、期待外れも良いところ、時間を返してほしいな。」

「……っ!!だったら!なんでこんなことしたんだよぉぉぉ!『神殺王天・沙羅袈裟喰』ぃ!!!」

「『消去(デリート)』」


 使える最大のスキルを、一瞬で消された。

それは、一端の魔法使いなら簡単に使える程度の簡単な魔対抗魔法。


「なんっ、最強のスキルなのに……俺は、チートを使って、無敵のはずだろっ!!」

「君は無敵さ、最強だし、神クラスさ。けど、手数が少なすぎる。絶望に対する耐性値、運命に縛られない自由。それらがまるで足りてない。」


 男が指で綺麗な五芒星をなぞると、それだけで俺の手足が消し飛んだ。


「こうやって、手も足も出ないようにしてしまえば、何もできない。」

「うぐぁぁぁああああ!!?」


 続けて、四角をなぞると、手足は戻ったが、目の前にもう一人、肌が浅黒くなった俺が現れた。


「君を増やしてしまえば、くだらない禅問答が始まる。」

「うわぁぁぁあああ!!」


 目の前の俺が、俺に向かって襲い掛かる。


「『システム』を強制的に剥奪してしまえば、君は原型すら保てない。」


 俺が消えたと同時に、体から力が抜ける。徐々に体が皺を刻み始め、歯や髪が抜け始める。


「『君より強い神』を僕が望めば、それはもう『君より強い神』となる。」


 死体の山から適当に掘り出した一人の死体が、綺麗に蘇生される。それはまだまだ小さな少年だが、その少年が俺に拳を向けると、それだけで内臓ごと体をぶち抜かれて、意識が飛びかけた。


「君は薄っぺらい。あまりにもあまりにも、立てるだけの気概が無い。量産型の主人公、その典型(・・)でしかない。異世界に行って、チートで無双して、特に理由も無く惚れられてハーレムを作って、起承転結を丸っと無視して、その時々の流行りに乗って、強大な魔法を使うことに躊躇いが無くて、男は殺すけど女は生かす。」

「なん、の話だ。」

「君も何冊も何話も読んでたじゃないか、ネット小説で有名な『なろう系』って奴だよ。君のコンセプトがそれで、君は想定通りに育った。だから棄てる。想定通りじゃダメなんだ。」


男は縦一文字に指をなぞると、俺は元の姿、元の力を取り戻す。


「僕も鬼や悪魔じゃない。君に選択肢をあげるよ。この世界を存続させたいなら、僕の配下になってくれ、それならみんな生き返らせるし、君もある程度は自由だ。だが、断れば、そうだね。死んでもらう。」

「の、飲む、その要求を飲む。だから、助けてくれ、みんなを生き返らせーーーっ!!?」


 包帯に隠れた目が、絶対零度になったのを感じた。


「君も仮にも主人公なら、僕の提案を蹴ってみせろよ。何モブみたいに命乞いしてるんだよ。死んだ人間が生き返るわけがないだろ。なに寝ぼけた事を言ってるんだ。ふざけるなよ。」


 横一文字に指をなぞる。


「『神天・滅殺豪魔炎ゴッテラ・バスクロヘス』」

「『王天・爆殺霊閃破ゴング・ラスクトマクト』」

「『魔天・無限永劫丘マジテラ・エトラエストラ』」


無数の『非致死性』究極魔法で体を焼かれ蝕まれ破壊される。

 『殺せない』代わりに『死を超えた傷をつける』魔法。


「くっ、『苦痛回避』『感覚遮断』!」

「マジで使い物にならないな。もうこれ以上、コイツに構ってる暇はない。」


「『混沌・螺旋・喰戟砲』」


 喰らい尽くすような魔力の本流が俺を包み、掻き消す。

遅刻寸前の自転車の上のような焦燥感だけが全部の、死の世界。

 

 俺の異世界生活は終わった。


「全く、主人公ならこれくらいの逆境、鼻息混じりにクリアしてほしいよね。……帰ろ。」











































◇◆◇


「『精神補強』……『精神補強』……『精神補強』」


 包帯の男は言った、『積み重ねが足りない』と。

だったら、ここで蹲り続けながら、積み重ねてやる。

 きっと、きっといつか、お前を殴る希望の拳になる。



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