【連載化しました】めんどくさがり屋で生意気な幼馴染のお世話を一日風邪でしなかったら、次の日に「捨てないで」と懇願された
俺の名前は――雨音優介。
ごくごく平均で、どこにでもいそうな男子高校生だが、俺には美少女な幼馴染がいる。
「おはようございまーす、運送しにきましたー」
その幼馴染の家のインターホンを鳴らし、そうな言葉を放つ。
インターホンから『入っていいわよ〜、いつもありがとうね〜』という女性の声が聞こえた。この声はおさなのお母さんの声だ。
俺はその家に入り、階段を登り、『れみ』と書かれてある部屋をノックした。
「おーい、入るぞー」
返答なし。ということは入っていいということだ。
ガチャリとドアを開け、その部屋に入る。中はゴチャッとして散らかっており、ベットの上で寝息を立てている人がいた。
俺はそいつの頰を優しくペチペチしながら起こそうとする。
「おい、玲美。起きろ」
「んゅ〜〜……」
こいつがその幼馴染――八雲玲美だ。
腰あたりまで伸びるサラサラな銀髪を揺らしながら上半身を起こし、目をこすっている。ルビーのような深紅な目で雪のように白い肌。そう、玲美はアルビノなのだ。
容姿端麗、勉強しなくてもテストは高順位。そんなこいつにも、もちろん欠点はある。
それは……
「ゆーすけ、ん。おんぶ」
「やれやれ……。そろそろ自分で歩いて欲しいんだが」
玲美の欠点、それはめんどくさがり屋ということだ。
移動時は俺がおんぶ、食事の時はあーん、俺が声をかけなければ何もしようとしないナマケモノ美少女なのだ。
「いいじゃん、ゆーすけは私の胸感じてコーフンしてんだし」
「してないわ。何年の付き合いだと思ってんだ」
「それに、ゆーすけが役立つことなんて、こんぐらいしかない」
「なんだと? 他にもあるわい」
「例えばぁ?」
「えーっと……。いいから行くぞ! 遅刻するッ!」
「やっぱ無いんじゃ〜ん」
ニヤニヤと口角を上げる玲美をおんぶし、下の階へ降りる。
リビングまで連れて行き、椅子に座らせて朝ごはんを食べさせる。着替えは極力自分でやってもらい、早速二人で登校だ。
「よし、行くか」
「れっらご〜」
まあ、いつも通りおんぶだけどな。
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「優介、ちーっす」
「おう、おはよ」
自分のクラスに入るや否や、クラスメイトの友人に挨拶されたので、挨拶し返した。
「『眠り姫』の運送、お疲れサマンサッ!」
「はいはい、どーも。そしてお前はアニメ見過ぎ。目の下にクマができてるぞ」
こんなめんどくさがり屋でも美少女は美少女。眠り姫という異名もつけられたらしい。
男子からの人気はあるらしいが、俺を見ている限り、付き合いたいとは思わないらしい。
なぜならお世話が大変だから。シンプルイズザベスト。
自分の席に座る前に、玲美の席に向かい、背中に乗っているコイツを降ろした。すると、机に突っ伏して寝始めた。
どんだけ寝るんだ、コイツ。
「にしても、毎日毎日ご苦労なこったなぁ。俺の肩もみを食らわせてやるぜッ! オラオラオラオラオラオラオラ」
自分の席に座ると、友人が労いの肩もみラッシュをしてくれた。
「まあ慣れたさ。あー、でも……」
「ん?」
「明後日か明々後日あたりは忙しくなりそうだなぁ」
「何かあんの?」
「いや、まあ家具やら荷物やらを運ばにゃならんから」
「優介って多忙な人生送ってんなー」
先生が来るまで友達と駄弁り、朝のHRが終わり、数分経つと授業が始まった。
その後も特に何もなく授業が進み、昼放課の時間となった。
「ゆーうーすーけー!」
「はぁ……行くか」
姫のお呼び出しをくらった。
俺は自分の弁当片手に玲美の席に向かい、横の空席に座った。
「んぁ」
「お前は鳥の雛か……」
玲美の弁当箱を渡された、口を開けていた。『食わせろ』という意思表示だ。
手慣れた手つきで弁当の具を箸で玲美の口に入れる。何度か繰り返していると、咀嚼することすら面倒になって、ガム噛んでる野球監督みたくなってる。
結局俺は、弁当を半分ぐらいしか食べられず、そのまま5、6時間目の授業に突入した。
6時間目はお腹が鳴ってしまった。
そして授業もすべて終わり、掃除の時間。
玲美は箒を持って廊下でぼーっと突っ立っている。ちゃんと掃除手伝え。
「うおっ……とっ、と……」
「ん?」
不意に後ろを振り返り、玲美の方に視線を送ると、近くにバケツを持った生徒がグラグラとなりながら運んでいるのを見た。
なんとなく嫌な予感がしたので、俺はその人に近づく。
「どっ、どぅわぁっ!!」
なんとなく転んで水をぶちまけるだろうなと予知できていた。だが、水が向かう先は玲美だった。
「玲美!!」
「え……」
手をぐいっと引っ張り、180度回転する。そして、俺の背中は大洪水となった。
「〜〜ッ! 冷てェ――ッ!!」
「す、すみません!」
水をこぼしてしまった人が俺の背中を拭いてくれているけど、それ雑巾じゃねぇか!
「い、いや……大丈夫ですから、はい、行った行った」
これは体操服に着替えるしかないな……。
「ゆーすけ、ないすぅ。今後もヨロ」
「『ありがとう』の一言ぐらい聞きたかったな〜……」
「それを言うには及ばない。帰りの時の背中が失われかけてるし」
「お前なぁ……」
「体操服に着替えておいてね」
……心配ぐらいしてくれてもいいんじゃないのか? ま、もう慣れたからいいけどさぁ……。
「ってか、寒気やばっ。早く体操服に着替えてこよ」
体操服に着替えた後、俺はいつものように玲美をおぶって家まで送り届けた。その後は普通に帰宅。
ちなみに俺はマンションで実質一人暮らしだ。父親には先立たれ、母親は妹とともにアメリカだ。ちなみに余談だが、母親がアメリカ人なので、俺の目は緑色だ。
「へっくしっ! あーやれやれ……風邪を引かなければいいけどな」
――後日。
「ヴェッ! ゲホッゴホッ!!」
風邪をひきました。目眩と高熱、それに寒気が止まらない。
風邪なんて何年ぶりだろうか……。
「どりあえず……玲美に連絡……」
プルプルと震える手で文字を打ち、玲美に『風邪をひいたから今日学校行けない』と送信した。
送ったと同時に再び夢へ誘われた。
――実はこの時、優介の文字は玲美に送れていなかった。そして、画面を開いたまま眠ってしまった。
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「こら玲美! もう遅刻するわよッ!?」
「ん……あれ? まま……? ゆーすけは……?」
いつも通りの憂鬱な朝が優介の声で始まると思ってた。けれど聞こえてくるのは頭に響くママの声だった。
「家には来てないわよ? 優介くん、あんたのめんどくさがり屋にしびれを切らして嫌いになっちゃったんじゃないの?」
「そんなわけない。ゆーすけは、そんなわけ……」
……そんなことないよね? 最近ゆーすけをこき使ったりしてたり、ちょっと嫌な態度とったりしちゃってるけど……そんなことで怒らないよね……?
「ほら、優介くんが来ないんならあなただけで支度しなさい」
「ぅむぅ……」
自分一人で朝の階段を降りるのなんて何年振りだろう。階段ってこんなに冷たかったっけ……。
だらだらとしながら着替え、スマホを確認した。何も送られていないので、私が送ってみた。
「あ、既読ついた……!」
既読してから数分。返信が帰ってこない。
「な、んで……。既読無視……?」
そんな……本当に嫌いに……?
いや違う! そうだ、昨日水かぶっちゃったから風邪ひいたんだ……よね……?
でも、本当に風邪じゃなかったら……。
「い、行ってきます……!」
小走りでゆーすけのマンションに向かう。
外の空気も、いつもと違う。こんなに冷たくなかった。
(全部全部ゆーすけのせい! 家に凸って、問い詰めて、今日一日はこき使ってやる……!)
ゆーすけの部屋の前でインターホンを押した。けれど、中からは音ひとつしなかった。
「ゆ、ゆーすけ。この私が一人でここまで来たんだよ……? 褒めていいんだよ? ねぇゆーすけぇ……」
……でも、学校行かなかったらゆーすけに怒られちゃう。
私は仕方なく学校に一人で向かった。明日絶対に筋肉痛だ。
――学校に到着。
朝のHR中、ゆーすけがいないことに先生が気づいた。
「あれ、優介はいないのか。誰か知ってる人いるかー?」
誰も何も答えなかったが、クラスメイトのとある話が鮮明に私の耳に入って来た。
「もしかしたらお世話が嫌になって学校くるのやめたとか?」
「あ〜、まぁ流石に最近度が過ぎてるっていうかねー……」
「そのまま嫌になり、遠くへ引っ越し……なんて、あるかもねぇ〜」
その話を聞いた途端、昨日の話のことを思い出した。学校に着いて、寝る直前に聞いたゆーすけの話。
『家具やら荷物やらを運ばにゃならんから』
このことを思い出した途端、私の体は震えだした。
「嘘……でしょ……?」
その事が気になって、いつも寝ている授業も起きて先生から心配された。
放課後、プリントなどを持ってゆーすけの家に到着して、インターホンを押した。
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「んー……寝てた……。ってか腹減ったぁ……」
インターホンの音で目が覚めた。時計を見ると、もう夕方を過ぎていた。
そういえば学校に連絡来てなかった……。
――ピーンポーン
「はいはい……今出ますよー」
ヨタヨタと歩きながら、扉を開ける。するとそこには――
(…………誰だ?)
そこには人影が見えるのだが、誰かは分からなかった。コンタクトをつけ忘れてるし、外ちょっと暗いし、寝起きだから誰だか全くわからん。
(とりあえずめんどくさがり屋の玲美は絶対に来ないだろ? じゃあクラスメイトかな……)
「ぇ、と……その……」
「あー、わざわざありがとうございます。うつしちゃ悪いからこれで。じゃっ」
突き出されたプリントを受け取り、軽く会釈をして扉を閉めた。
明日ちゃんとお礼しないとな。
「……今まで見た事ないくらい怖い顔してた……。しかもゆーすけ他人行儀だったし、本当に私のことが……。うっ……うぅっ……」
優介は耳鳴りがひどく、ドアの前で降る雨の音は聞こえていなかった。
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「完治ッ!」
朝起きて、俺は開口一番にそう叫んだ。
昨日の分を取り戻すべく、今朝は早起きだ。
果たして昨日、玲美はうまく学校行けたのか?
そんなことを思いながら弁当を用意し、制服に着替える。ちょっと早いが、もう出ることにしたのだが、俺は驚愕することになる。
「え……な、なんで玲美ここに……ってかここまで歩いて来たのかッ!?」
なんと玄関を開けると、そこにはめんどくさがり屋の玲美の姿があったのだ。
「うおっと!」
俯いていた玲美は突然背中に手を回し、抱きついて来た。
「お願い、捨てないで……! 私今日からちゃんとするから! 朝も起きて、弁当もちゃんと自分で食べるからぁ!!」
「れ、玲美……!? なんで、泣いてるんだ……」
玲美のルビー色の目からは涙がポロポロと溢れでている。声と体は震えていて、見てるこっちまで悲しくなってきそうだった。
「と、とりあえず中で話聞こう!」
抱きついて離してくれなかったので、抱っこしながら部屋の中に戻った。
赤ん坊をあやすように背中をポンポンと優しく叩き、頭を撫で続けたら少し落ち着いたようだ。
「ぐすっ……ごめん……」
「いや、大丈夫だ。……にしても、一体全体どういうことなんだ……? 『捨てる』? とかなんとか……」
椅子に座らせて、話を進めることにした。
するとまた涙ぐんでしまったが、声を震わせながら説明してくれた。
「だって……昨日既読無視するし、放課後家いっても怖い顔されたし……」
「……ん?」
『あれ?』と思い、スマホを確認した。すると、玲美に送信できてなかった。
っていうか、昨日の人玲美だったのかよ!
「それで……わたしのこと嫌になって引っ越しちゃうかもしれないっで思ったしぃ……! やだ! 離れ離れになりたくないの!」
「な、泣くなよ玲美! 俺引っ越さないから!」
「え……ほんと……?」
また泣き出しそうな玲美にそう伝えると、目を見開いて俺の方を向いてきた。
「もちろん! ……ってか、なんでそんなことを……?」
「だって、荷物とか運ばなきゃって言ってたから……」
「あー! それはなぁ、俺の部屋に妹が引っ越してくるんだよ。俺が引っ越すわけじゃないから!」
必死の弁解をすると、続け様に玲美が質問してくる。
「じゃ、じゃあ昨日の既読無視は……?」
「送れたと思ったら送れず、画面を開いたまま寝ちゃった」
「怖い目で他人行儀だったのは……?」
「コンタクトつけてなくて、誰かわかんなかったからだ」
玲美は安堵したかのように肩を下ろして椅子にもたれかかる。
「よかった……ほんとうに……」
「っ……!」
……俺は本当に馬鹿野郎だよ。ついさっきは、生意気な玲美がこんなに弱ってるのを見て少し優越感を覚えていた。
だけど玲美はこんなにも傷ついていたんだ。
過去に戻って、そう思った俺をぶん殴ってやりたい。
ギュッと拳を握りしめていたが、それを緩めて、玲美の涙を拭き取った。
「ごめん、玲美」
「ゆーすけは別に謝らなくてもいいよ……。わたしが勘違いしただけだし、ゆーすけに嫌な態度とっちゃってたし……」
「いいんだよ、別に。俺は……泣いてる玲美より、少し生意気で、笑顔を見せる玲美の方が好きだから」
「ふぇ……?」
……ちょっと待て。イタいッ! イタタタタ!
なんだ今の俺の台詞!? キザすぎるだろうが……!
「あ、いやぁ〜、忘れてくれ今の言葉!!」
「や」
「ひぃん!」
小悪魔的な笑みを浮かべ、玲美はこう言う。
「絶対に忘れないから♪」
「こうして黒歴史に刻まれて行くのかぁ……」
まあでも、玲美がいつもの調子を取り戻してくれてよかった。
「学校行けそうか? 無理そうだったら一緒にサボるか?」
「んーん、行こっ。今日一日は私の言うこと聞いてもらうから」
「ま、今日は大人しく従うよ」
椅子から立ち上がり、玄関まで歩いて外に出た。早速しゃがみ、おんぶして運送しようとした。
しかし、背中に乗ることはなかった。代わりに、玲美は俺の片手を柔らかい手でぎゅっと握ってきた。
「今日は、これでいい」
「え、じ、自分で歩くのか!?!?」
「そこまで驚かなくてもいいじゃん……。ほら、行こ」
玲美に手を引かれ、俺たちはそのまま学校に向かう。
玲美も成長するんだなぁ……と、しみじみと幸福を噛み締めながら足を進める。
「あ、そうだ。明後日俺の家でパーティー的なことを開くんだけど……玲美来るか?」
「面倒くさい」
「だよなぁ」
「けど……ゆーすけがいるなら、行く」
玲美は、ほんの少し微笑む。俺は少しドキッとしてしまった。
ツンデレやクーデレと並ぶ、新たな『ダルデレ』というものか……?
そんなことを思いながら俺たちは学校へ向かった。
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私が一番好きなことは最高のダラダラすること。
けど、その最高のダラダラには色々なものが必要になる。暖かい部屋に、ふかふかのベッド、心地いい枕……。けれど、私は一番大事なものを昨日まで忘れかけてた。
失いかけて、初めて自覚できた。
その一番大切なのは――
「――ゆーすけ」
自然と口からこぼれ出ていた。
学校へ行く途中で、ゆーすけは私の方に顔を向けた。
「ん? どうした?」
「私、おばあちゃんになって死ぬまで、最高のダラダラを続けたいなって、思っただけ」
「あはは、お前らしいな」
ゆーすけにおんぶされるのは好き。安心するから。
けど、まだ安心するには早いってわかった。
だから――今日から覚悟しとけよ、ゆーすけ。
数年前の作品なのになぜか今になって再び伸びた。
ので、いい機会だと思って連載化しました!
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