11 嘘はついていない
するとそれを察した華子は、長い前髪に隠れた目を大きく見開いてこう呟いた。
「え、ま、まさか、乙子さんは、もう処女では、ないのですか?」
というかそもそも最初から女ではないのだが、
処女でないという事自体は事実なので、紳士クンはゆっくりと頷いた。
ちなみに華子は紳士クンが女の子だと思い込んでいるので、
その紳士クンが処女ではないと知り、雷に打たれたような衝撃を受けたようだった。
「ええっ⁉そ、そそそそうなんですか⁉どえええっ⁉
そんなあどけない顔をして、もうご卒業なされたのですか⁉
い、いつ⁉誰と⁉どのようなイキサツで⁉」
嵐のごとくまくしたてる華子に、紳士クンはあたふたしながらこう答えた。
「え、えぇと、ゴメン、詳しい事は、言えないんだ・・・・・・」
まさか自分が処女ではなく童貞であるとも言えない紳士クンは、
そう答えるのが精一杯だった。
しかしそれで華子は納得したようで、二、三歩よろめいて後ずさり、
両手で頭を抱えながら呟いた。
「そ、そうですよね、こんな大事な事、他人に言えるはずがありませんものね。
そ、そう、だったんですか、乙子さんには、
もうそういうお相手がいらっしゃったのですね。
それはそうですよね、乙子さんは同性の私から見ても、
とっても可愛くて素敵な女性ですし、私が男であれば、
たちまち心を奪われたでしょう。
そうですか、乙子さんはもう、
私なんかとは違う世界で、生きていらっしゃったのですね・・・・・・」
そう言って紳士クンを見つめる華子。
その目には寂しさや憧れ、そしてほんの少しの嫉妬など、
実に複雑な感情が絡み合っていた。
一方の紳士クンはその誤解を何とか弁解したいと思ったが、
それをすると自分が男だとバレてしまうので、
ただただ引きつりまくった笑みを浮かべる他はなかった。
そして唯一言える事だけを口にした。
「あ、あの、この事は、皆には内緒にしといてもらえるかな?」
すると華子は両手を胸の前で組み合わせ、何度も頷きながら言った。
「絶対に誰にも言いません。今、目の前の聖母様に誓って約束します」
「う、うん、ありがとう」
とりあえず、紳士クンが処女ではないという秘密はこれで守られる事になるのだが、
それと引き換え手に入れた心の虚しさは、
紳士クンの人生の虚しさトップ3にランクインするほどであった。




