9 ドン・ペテン・シー著 サルでもできる幽霊召喚儀式マニュアル
(華子さんって、勇気があるというか、
こういう状況でも本当に物怖じしないなぁ)
お化けや幽霊を信じている訳ではないが、
かといって怖くない訳ではない紳士クンは、
こんな状況でも平常心を保っていられる華子の背中を、尊敬の眼差しで眺めた。
真のジェントルメンとは、こういう状況でも物怖じせず、
むしろ怖がる女性を守らなければいけないのだろうが、
この状況でそういうジェントルメン魂を発揮するチャンスは巡ってきそうにはなかった。
なので紳士クンは教会の扉を静かに閉め、そそくさと華子の後を追った。
華子は中央の細い通路を抜け、祭壇の前の少し広いスペースで立ち止まり、
そこに背中のリュックを下ろして中の物を取り出し始めた。
「それは、何なの?」
リュックから取り出されるロウソクや分厚くて怪しい本や大きな白い布を眺めながら、
紳士クンは華子の背中に問いかける。
「これは儀式に使う道具ですよ。幽霊を呼び出す為のね」
「そ、そんな事ができるの?」
華子の言葉に紳士クンが目を丸くしていると、
華子は分厚くて怪しい本を紳士クンの前に差し出してこう続ける。
「この本に書いてある通りに儀式を行えば、私のように霊感が全くない人間でも、
目に見える形で幽霊を呼び出す事ができるんですよ」
「そ、そうなんだ」
そう言って紳士クンは頷いたが、華子が差し出した本のタイトルが、
『ドン・ペテン・シー著 サルでもできる幽霊召喚儀式マニュアル』
とあったので、この本に不安を覚えない訳にはいかなかった。
(こ、この本の通りにして、本当に幽霊が呼び出せるのかな?
僕としては、むしろ呼び出せない方がいいんだけど・・・・・・)
紳士クンが不安を募らせる中、華子はせっせとリュックから道具を取り出し、
儀式の準備を進めていく。
まずリュックから取り出した正方形の大きな白い布を、床の上に広げて敷いた。
そこには何やら怪しげな魔法陣が布一杯に描き込まれていて、
その魔法陣を取り囲むように、間隔を置いてロウソクを置き、
そこにマッチで火をともしていく。
そして魔法陣の中央に銀色の小さなトロフィーのような杯を置き、
そこにペットボトルに入った透明の液体を注いだ。




