2 大きな進歩
「今日はこれくらいにしましょうか」
「う、うん・・・・・・」
紳士クンは頷き、魂ごと口から漏れ出てしまいそうなほど大きく息を吐きだした。
水落衣との練習はほんの十五分ほどなのだが、
その疲労感は一時間くらいランニングするよりもさらに消耗しているような感覚だった。
紳士クンはがっくりうなだれ、乱れた呼吸を元に戻す事に努めた。
そんな紳士クンに、水落衣は申し訳なさそうな顔で声をかける。
「いつもすみません、私のワガママに付き合ってもらって」
それに対して紳士クンは、首を横に振ってこう返す。
「全然構わないよ。
僕の方から練習に付き合うって言い出したんだし、
それに最近は随分自分の力がコントロールできるようになってきたんじゃない?」
「はいっ。最近は人の目を見ても、
自分が自分じゃなくなるような感覚はなくなりましたし、
視えた未来をそのまま口走るような事もなくなりました」
水落衣が嬉しそうな笑顔を浮かべてそう言うと、
紳士クンもニッコリほほ笑んでこう返す。
「それはよかった。たった一週間の練習でこんなに成果が出るなんて凄いね」
「蓋垣さんが私の練習に付き合ってくださったおかげです。
それに今では相手の近い未来や遠い未来を見分ける事ができるようになったし、
相手の目を見ても、意識的に未来を視ないようにする事もできるようになりました」
「す、凄いね。やっぱりその力は水落衣さんに与えられるべくして与えられたんだよ」
「そうなんでしょうか。でもやっぱり私としては、
この力はあまり使いたくないというのが正直な気持ちです。
相手の未来を視るというのは精神的にも体力的にも凄く消耗しますし、
それが遠い未来になるほど、消耗も大きくなるんです」
「そ、そうなんだ。まあその力をどう使うかは水落衣さん次第だけど、
それが自分でコントロールできるようになったのは、大きな進歩だよね」
「はい。これで人の目を怖がらずに生きていけます」
そう言って嬉しそうに笑う水落衣を見て、
紳士クンも本当の意味で水落衣の役に立てたと思い、嬉しい気持ちになった。
そして一転して真面目な顔になり、水落衣に尋ねた。




