10 衝撃の予言
「転んだのは私がおっちょこちょいなせいなので気にしないでください。
こちらこそ親切にしてくださってありがとうございます」
そして顔を上げると紳士クンとバッチリ目が合い、
水落衣のその穢れのない宝石のような瞳が、
紳士クンの無垢でつぶらな瞳をまっすぐに見つめていた。
そのえもいわれぬ不思議な視線に、紳士クンは身動きできず、
目をそらす事もできなかった。
この感覚はまるで、昼休みに香子に自分の心の中を覗き見られた時のようなそれだったが、
水落衣の視線は、その更に奥まで見透かされているような、
怖いような、幻想的なような、何とも言いようのない感覚だった。
紳士クンの首筋に冷や汗が一筋。
そしてゴクリと生唾を飲む。
対する水落衣は何かに取りつかれたように無表情で、
ピクリとも動かずに紳士クンの目を見つめている。
そしてさっきとはまるで別人のような、無機質で抑揚のない口調でこう言った。
「アナタハ将来トテモ素敵ナオ嫁(、)サンニナリ、幸セナ結婚生活ヲ送ルデショウ」
「ええっ⁉」
水落衣の言葉に衝撃を受ける紳士クン。
そして無意識に水落衣の両肩を掴み、揺さぶりながら声を荒げた。
「ぼ、僕、本当に誰かのお嫁さんになるの⁉
ていうか、やっぱり水落衣さんは本当にその人の未来が視えるの⁉」
その声にハッと我に返ったようになった水落衣はみるみる顔が赤くなり、
持っていた
『人とかかわらずに生きていく為のサバイバルマニュアル』
で顔を隠して言った。
「ご、ごめんなさいっ。
私、その人の目を見ると、その人の未来が視えちゃうんです。
それで自分が自分じゃないみたいになって、視えた事をそのまま声に出しちゃうんです。
こんな事言っても信じてもらえないでしょうけど、本当なんです」
「う、うん、それは、信じます・・・・・・」
それよりも自分が将来お嫁さんになるという部分が
どうしても受け入れられない紳士クンだったが、それはひとまず置いといて、
無理矢理にぎこちない笑みを浮かべてこう言った。
「あの、僕は一年の蓋垣乙子っていいます。
実はあなたのお姉さんに、
妹であるあなたの相談に乗ってあげて欲しいと頼まれて来たんです。
その、初対面の僕に相談するなんてできないだろうから、
えと、少しおしゃべりだけでもしませんか?
もちろん無理にとは言わないけど・・・・・・」
すると水落衣はしばらく黙り込み、本で顔を覆ったまま、呟くように言った。
「少しだけなら、いいです。
ただ、私はこういうヘンテコな力があるので、
えと、蓋垣さんと目を合わせて話す事は、できませんが、
それでよければ・・・・・・」
その言葉を聞いた紳士クンは、今度は心からの笑顔を浮かべてこう返した。
「もちろん、構わないですよ」




