6 文学少女の妄想力
「静香さん、針須さんの事、覚えてますよね?」
「え?は、はい」
その名前を聞いて、静香の顔に若干の緊張の色が現れる。
尚は以前特別授業で静香の家に泊まりこみ、
メイドとして色々お世話する事になったのだが、
極度の女子恐怖症である静香は尚の献身的な奉仕をことごとく拒絶してしまい、
ついには尚を泣かせてしまった。
その後紳士クンや撫子の取り成しによって誤解を解いて仲直りする事はできたものの、
静香の中では、まだモヤモヤしたものが残っているようだった。
その感情を察しながら、紳士クンはハッキリした口調で静香に言った。
「実はさっき彼女に会って、今度静香さんを、
自分の家にお招きしたいと伝えて欲しいとお願いされたんです」
「ええっ⁉」
紳士クンの言葉を聞いた静香は、
驚きのあまりに両手に抱えていた本をバサバサと床に落としてしまった。
それを慌ててしゃがんで拾い、紳士クンも拾うのを手伝いながら言葉を続けた。
「針須さんは、静香さんともっと親しくなりたいみたいなんです。
だから静香さんを自分の家に招いて、
楽しくおしゃべりしたりお茶を飲んだりしたいんじゃないですか?」
そう言いながら紳士クンが拾った本を静香に差し出すと、
それを受け取りながら静香はこう言った。
「そ、それで私を油断させておいて、後で私を地下の牢獄に監禁して、
あらん限りの罵声を浴びせたり、
折檻したりするおつもりなんでしょうか・・・・・・」
「そんな事しませんよ!
この前の事はちゃんと静香さんも謝ったし、
針須さんだって全然怒ってなかったじゃないですか!」
(ま、まあ、剛木さんはまだちょっと怒っているみたいだけど・・・・・・)
真子の気持ちは伏せておき、紳士クンはそう言ったが、
静香はまだ受け入れられない様子でこう返す。
「で、ですが、私が彼女にした罪は、
一度謝ったくらいで消えるようなものじゃありません。
私は針須さんの家の地下の牢獄に閉じ込められた後、
インドの闇商人の元へ売られてしまうのです。
そして売られた先の悪いお金持ちのお屋敷で、
奴隷のように一生働かされるんです・・・・・・」
「針須さんの家に地下の牢獄なんかないし、
インドの闇商人にも売られたりしませんから!」
文学少女独特の妄想力を展開させる静香に、思わずツッコミを入れる紳士クン。




