2 尚のお願い
そんな紳士クンにズイと詰め寄り、尚は両手を組み合わせてこう続ける。
「そんな乙子さんにもうひとつお願いしたい事があるのですが、
聞いていただけますか?」
「な、何でしょう?」
尚の独特の迫力に気圧されながら紳士クンが問い返すと、
尚は瞳をキラキラ輝かせながら言った。
「私、静香お姉様ともっともっと親しくなりないと願っておりますの。
特別授業の時、メイドとして静香お姉様にお仕えしましたが、
全く口を聞いていただけず、
私が嫌われているのだと思ってとても落ち込んでしまいました。
ですが乙子さんのおかげで、それは大きな誤解だとわかりました。
あの方はとてもシャイで、純粋な心を持ち合わせた方だったのです。
そんな静香お姉様に私は一層惹かれ、好きになってしまったのです。
だから少しずつでもあの方と親しくなりたいと思っているのです。
なので近いうちに、私の家にお招きしたいと思っているのですが、
その事を静香お姉様にお伝えいただけませんか?」
「ま、まあ伝える事は構いませんけど、
静香さんがそのお誘いを受けるかは分かりませんよ?
針須さんの事がどうとか以前に、静香さんはあの通り、
超がつくほど人付き合い(正確には女付き合い)
が苦手みたいなので・・・・・・」
「それは重々承知しております。
なのでその時は乙子さんも一緒にお招きしたいと思っておりますの。
静香お姉様は乙子さんにとても心を許していらっしゃるご様子ですので、
そんな乙子さんも一緒なら、
静香お姉様もきっと私の誘いを受けてくださると思うんです」
「う、う~ん、どうですかねぇ・・・・・・?」
腕組みをして考え込む紳士クンに、尚は更に詰め寄って続ける。
「それに私、お慕いする静香お姉様が心を許すあなたとも、
もっとお近づきになりたいと願っていますの。
だから静香お姉様だけでなく、乙子さんにもぜひ来ていただきたいのです。
ダメ、ですか?」
そう言って神に救いを求める子羊のような瞳で紳士クンを見つめる尚。
その何とも断りにくい眼差しに、紳士クンは大きく息をついて言った。
「わ、わかりました。どういう返事が返ってくるかはわかりませんけど、
針須さんのお誘いを伝えるだけは伝えてみます」
紳士クンがそう答えると、
尚は神の恵みを受けたるかのごとく目をパッと輝かせ、
紳士クンの両手をギュウッと握りしめて言った。
「ありがとうございます!やっぱりあなたは私がお見受けした通り、
とても心根が清らかで親切な方でいらっしゃいますね!」
「あ、ど、どうも・・・・・・」
絞り出すような声でそう返しながら、紳士クンは思わず尚から目をそらす。
ようやく女子校での生活に慣れてきたとはいえ、
尚のようなフランス人形のように愛らしい乙女に両手を握られ、
鼻先がぶつかるかと思うほどに顔を近づけられると、
紳士クンの心は嵐にさらされる森のごとくかき乱され、
顔はよく熟れたリンゴのごとく真っ赤になってしまうのだった。




