19 石油まみれの海面に裸で飛び込む感覚
「孔田野さんは、やっぱり将来は占いのお仕事をするんですか?」
「そうねぇ、だけど私の場合は占いの勉強より、
物の言い方や伝え方の方を勉強しなきゃいけないのよね。
ほら、私の言い方って身も蓋もないじゃない?
自分でも分かってるんだけど、なまじその人の人となりが視えるから、
ついつい私の偏見でズケズケ言っちゃうのよねぇ。
その人の過去だけじゃなくて未来までちゃんと視る事ができれば、
こんな苦労もしなくていいんだろうけど」
「あはは、でも、人の過去が視えるだけでも凄いと思いますよ?」
「そうなんだけど、人の心の中なんて本当は視えない方がいいのよ?
今回はあなた達みたいにとびきり綺麗な魂だったから楽しめたけど」
「やっぱり楽しんでたんですね・・・・・・」
「あ、いやいや、それはまあひとまず置いといて、
人の心の中なんて程度の差はあれ、大体汚いのよ。
ひどいのになると、
沈没したタンカーで石油まみれになった海面みたいな心の人も居るわ。
真っ黒でドロドロで臭いもひどい。そこに私は裸で飛び込んでいく感じ」
「そ、そんな感じなんですか?」
「そう、程度にもよるけど大体そんな感じね。
人の心の中を視た後は、トイレで吐く事もあるのよ?
だからその人に対する物言いもついついキツくなっちゃうのかもしれないわね」
「そ、そうなんですか・・・・・・」
「だから今日は久しぶりに、
澄み切った真っ青な海の中に潜れた感じで本当に気分がいいの。
人の心の中を視てこんな気持ちになれたのは生まれて初めてかもしれないわ。
ありがとね」
「は、はぁ、・・・・・・」
全く想像の及ばない次元でお礼を言われ、
紳士クンはどう返事をしていいのか分からなかった。
そして苦笑いを浮かべながらこう続けた。
「人の心の中が視えるって、いい事ばかりじゃないんですね。
僕だったら人間不信になっちゃうかもしれないなぁ・・・・・・」
すると香子は一転して両拳をグッと握り締めて言った。




