5 お姉様も来ている
令太との待ち合わせ場所は、
以前笑美とお出かけした時と同じ駅の前の広場だった。
現在午前十一時。
約束の時間より三十分くらい早く着いたので、令太はまだ来ておらず、
紳士クンは広場の時計台の前にポツリとたたずみ、令太を待つ事にした。
(令太クン、一体どんな格好で来るんだろう?
令お姉様の事だから、
僕なんか比べ物にならないくらい完璧な女装をさせるはずだよね。
令太クン大丈夫かな?ちゃんとここに来てくれるかな?)
そう心配しながらハラハラする紳士クン。
そんな紳士クンに道行く男達が思わず目を奪われている事に、
紳士クンは全く気付いていなかった。
そしてそんな紳士クンの事を、少し離れたビルの屋上から、
双眼鏡で覗き見る人物が一人。
凄木令である。
濃いワインレッドを基調にしたブラウスと漆黒のロングスカートで身を飾り、
その姿はまるで艶美なる魔界の女王のごとし。
今日は紳士クンと令太のお出かけの様子を覗き見、
もとい、見守る為、こうしてはせ参じたのだった。
ちなみに、女装した可愛い男の子がこの世で何より大好物だという、
ちょっとアレな嗜好と思考の持ち主である令は、
誰もが目も心も奪われるような可愛いワンピースで現れた紳士クンに、
文字通り目も心も奪われていた。
(ああ、今日の乙子ちゃんは何て可愛くて愛らしくて愛おしいのかしら。
まるで春の天使がこの世に舞い降りたようだわ。
不安と恥じらいが入り混じった表情もたまらない。
今すぐにでも抱きしめてキスの嵐を浴びせたい。
そしてそのまま連れ去って、私の屋敷の部屋に永遠に閉じ込めてしまいたいわ。
ああ、でも今日はダメ。
令太と乙子ちゃんの大切なお出かけの日なんだから。
あの二人が今日のお出かけでどんな進展を見せるのか覗き見、
いえいえ、見守るのが今日の私の使命なのよ)
そう考えて妖しく微笑む令の表情は、
船乗りを誘惑し、海の底に引きずり込む人魚よりもヤバかった。




