17 彼女は聞いていた
思いもよらない言葉に目を点にする令太。
しかし紳士クンは令太を見据えたまま続けた。
「僕、もっと令太クンと色んなお話がしたいんだ。
だって令太クンは、この学園で唯一、
僕と同じ悩みを持っている人だから・・・・・・」
そこまで言うと、紳士クンは全てを言いつくしたようにうつむいた。
それに対して令太も言葉なく下を向く。
・・・・・・。
資料室に気まずい沈黙が流れる。
そしてその沈黙に耐えられなくなった様子の令太が、
堰を切ったように口を開いた。
「わぁかったよ!ハデスの国でも黄泉の国でもどこでも行ってやるよ!
それでお前の気が済むならな!」
令太の言葉にホッとした紳士クンは、ニコッと笑って言った。
「そんな物騒な所じゃなくて、もっと楽しい所に行こうよ」
「どこだっていいよ!」
ぶっきらぼうに答える令太だが、
紳士クンはそんな令太との距離が少し近づいたような気がして、心から微笑んだ。
その笑顔を間近に見た令太は、右手で顔を覆って背を向けた。
その行動の意味に気付かなかった紳士クンは、それ以上は何も言わなかった。
そんな紳士クンに、令太はそれ以上何も言えなかった。
かくして紳士クンと令太は今度の休日、
一緒にお出かけする事となったのだが、
その事実を資料室の扉の外側で盗み聞きをし、ひそかに微笑む人物が居た。
そしてその人物は状況を理解すると、
ウエーブのある豊かなブロンドの髪をひるがえし、
軽やかな足取りで立ち去った。
それからというもの、紳士クンとの話し合い(?)のおかげか、
令太は以前ほどクラスメイトに邪険な態度をとる事はなくなり、
それとともに周囲のクラスメイトも、令太に冷たい態度をとる事はなくなった。
そしてあれほどぶっきらぼうな態度をとっていた令太を大人しくさせたという事で、
クラスでの紳士クンの株はグッと上がったのだった。
しかしそんな事より紳士クンは、今度の休日の令太とのお出かけで、
彼ともっと仲良くなれるかどうかが、心配の種だった。




