22/110
15 日都好子の初登場シーン
令太が立ちあがった拍子に、椅子が勢いよく倒れる。
静まり返った教室に、ひと際大きな音が響いた。
「け、蓋垣さんっ。あの、乱暴な事は、よくない、わよ?」
いつもとは別人のような紳士クンの背中に、遠慮がちに声をかけた女子生徒が一人。
クラス委員長の日都好子だった。
底抜けのお人よしで、人類皆兄弟だと心の底から信じている好子は、
今にも喧嘩を始めそうな紳士クンをなだめるように口を開く。
「喧嘩はやめて、皆で話し合いましょう?ね?」
が、そんな好子の方に振り向いた紳士クンは、
大きく瞳を見開き、ぶつけるような口調で言った。
「喧嘩はしないよ。
でも今は、令奈さんと二人で話がしたいんだ。
だから他の人は、口を挟まないで」
「は、はい・・・・・・」
紳士クンの有無を言わさぬ剣幕に、
好子はそう言って立ちすくむ事しかできなかった。
そんな好子に紳士クンは「ゴメン」とつぶやき、
令太の腕を掴んだまま教室を出て行った。
その後ろ姿を、好子を始めとする教室の面々は、
言葉もなく見送る事しかできなかった。




