14 乙子ちゃん、歩み寄る
「お、乙子ちゃん?」
「ど、どうしたんですか?」
目を丸くする笑美と華子の言葉は耳に入らず、
紳士クンは踵を返し、よどみのない足取りで令太の居る席へ向かって行く。
さっきまで不穏な空気に満ちていた教室は瞬時に静まり返り、
紳士クンの足取りに目を奪われる。
その姿は迷いがなく、実直で、一途だった。
そんな紳士クンの姿を正面に捉えた令太は、
驚くような、脅えるような、不安なような顔つきで、
その場から逃げだす事もできず、ただ眺めていた。
そんな令太の前に紳士クンは立ちはだかり、まっすぐに令太の顔を見下ろす。
その瞳に怒りはない。
あるのは強い想いだけだ。
その一点の曇りもない瞳に見据えられた令太はたちまち耐えられなくなり、
フイッと目をそらす。
そして苦し紛れに声を絞り出すのが精一杯だった。
「な、何だよ?」
それに対して紳士クンは、抑揚のない、しかし力のこもった声で言った。
「話があるんだ。ちょっと付き合ってくれない?」
すると令太は自分の両腕を抱え込んでこう答える。
「俺は、ねぇよ。お前と話す事なんか、何も、ねぇよ」
「君にはなくても僕にはあるんだよ。だから来て」
そう言って令太の右腕を乱暴につかむ紳士クン。
そして強引に引っ張り上げ、令太を無理矢理に席から立たせた。
ガタン!




