13 孤立無援の令太
「乙子ちゃんは、令奈に怒ってるんやんな?
訳も分からずずっと睨まれとったもんな?」
「そうですね。令お姉様の妹とはいえ、ちょっと振舞いが悪すぎますもんね。
心根の優しい乙子さんが怒るのも無理はありません」と華子。
しかし紳士クンはそのどちらの言葉にも頷く事はできなかった。
(違うんだ。僕は決して令太クンに怒っている訳じゃないんだ。
ただ彼と、ちゃんと話がしたいだけなんだ)
が、そんな紳士クンの気持ちとは裏腹に、
クラスの皆の考えも、笑美や華子と同調しているようだった。
「あの温和な蓋垣さんでさえあんなに怒るのだから、
凄木さんは人として相当問題があるのよ」
「そうよ、どうしてこの学園に転校していらしたのかしら?
あの方が居ると教室の雰囲気が悪くなってしょうがないですわ」
そんなささやき声が方々から聞こえる。
今やこのクラス全体が、令太に非難の視線と声を浴びせている。
その渦中に置かれた令太は、
その渦に飲み込まれるようにどんどん委縮していくようであった。
(このままじゃあ、ダメだ)
紳士クンの心の中に、そんな一滴の想いが生まれた。
そしてその滴が心の水面に落ちた瞬間、
その想いは瞬時に燃え上がり、紳士クンの心の中を一杯に満たした。
今までの疲労感は消え、頭の中でグルグル泳ぎ回っていた言葉は消え去り、
暁の湖のように澄み渡る。
次の瞬間、紳士クンは立ちあがっていた。




