6 心当たりは、なくもない
そんなこんなで昼休み。
授業の終わりを告げる教会の鐘が鳴り響くと、
令太は今日もそそくさと逃げるように教室を出て行った。
そんな令太の後姿を眺めながら、
紳士クンの元にやって来たクラスメイトの樫増笑美は言った。
「ホンマにあの子、愛想ないなぁ。
この学園に転校して一週間経つのに、
全然他の子と仲良くしようっていう気がないもんなぁ」
すると同じく紳士クンの元にやって来た戸入野華子がこう続ける。
「確かに、あの方は人づきあいがあまりお好きではないようですね。
でも乙子さんには関心があるんじゃないですか?
授業中、ずっと乙子さんの事を見つめていますし」
「う、う~ん・・・・・・」
華子の言葉に困った表情を浮かべる紳士クン。
そこに笑美が右手をヒラヒラ振りながら口を挟む。
「でもあの視線は、関心があるというより敵意や憎しみに近いものを感じるで?
乙子ちゃん、何か心当たりある?」
「それが、まったく思いつかないくて・・・・・・」
と、紳士クンは答えたが、心当たりが全くないという訳でもなかった。
紳士クンが実は男である事。
そして令太も実は男である事を、紳士クンが知ってしまった事。
ここに原因があるのではないかと、紳士クンは考えていた。
が、そんな事を露も知らない笑美と華子は、
紳士クンを差し置いておしゃべりを続ける。




