17 いつの間にか視える人になっとる
彼女の言う通り、その口調はいつもの華子のそれではなく、
声そのものも、完全に別人の声色になっている。
それは華子が取りつかれているフリをしているのではなく、
本当に取りつかれている事を如実に物語っているようだった。
そんな彼女を指差しながら、紳士クンは震える声で言った。
「や、やっぱり、さっきの幽霊が華子さんに取りついたんですね!」
すると華子に取りついた足のない乙女は眉を潜め、小首を傾げてこう返す。
「ん?何でそんなにあっさり納得できるの?
もしかして君、この子に取りつく前の私が視えてたの?」
その問いかけに紳士クンが無言でうなずくと、彼女は目を丸くして続けた。
「へぇ、君は視える人(、、、、)なんだ。
あんまりそういう雰囲気じゃないのに、ちょっと意外ね」
「ぼ、僕自身も、幽霊が視えるなんて知りませんでした。
あ、あなたは本当に幽霊で、今、華子さんに取りついているんですか?」
「本当も何も、君が視た通りだよ。
私はこの教会でさまよう、君達で言う所の幽霊なの。
名前は布由愁衣。これでも昔はこの学園の生徒だったのよ?」
「た、確かに、幽霊の姿の時も、この学園の制服を着ていましたもんね。
でも、どうして彼女、華子さんに取りついたりしたんですか?」
「だってこの子、幽霊を呼び出す儀式をしてたんでしょう?
別にこの儀式自体にそんな力はないけど、ちょうど退屈してたし、
いっそこの子に取りついてやろうと思った訳よ。
いや~、やっぱり生身の体はいいわねぇ。
ちゃんと足があるし、生きてるって感じがするもの」
そう言って両手で自分の体を抱きしめる愁衣。
そんな愁衣を眺めながら、紳士クンは顔を引きつらせながら尋ねる。
「あ、あの、愁衣さんは、どうしてここで幽霊をしているんですか?
やっぱり昔、ここで不幸な死をとげたんですか?」
すると愁衣は一転して悲しげな顔をして、祭壇の聖母様を眺めながら言った。
「そうなの。私がここで幽霊をしているのには、
それはそれは深く、悲しい理由があるのよ」
「も、もしよければ、僕に話してもらえませんか?
何か力になれる事があるかもしれませんし」
紳士クンは親切心からではなく、そうすればこの幽霊が成仏し、
華子の体から出て行ってくれるのではないかと考えたのだ。
するとそれを知ってか知らずか、愁衣は悲しみに暮れた口調で言った。




