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紳士クンの、割と不本意な日々Ⅲ  作者: 椎家 友妻
第五話 紳士クンと足のない乙女
105/110

17 いつの間にか視える人になっとる

 彼女の言う通り、その口調はいつもの華子のそれではなく、

声そのものも、完全に別人の声色になっている。

それは華子が取りつかれているフリをしているのではなく、

本当に取りつかれている事を如実に物語っているようだった。

そんな彼女を指差しながら、紳士クンは震える声で言った。

 「や、やっぱり、さっきの幽霊が華子さんに取りついたんですね!」

 すると華子に取りついた足のない乙女は眉を潜め、小首を傾げてこう返す。

 「ん?何でそんなにあっさり納得できるの?

もしかして君、この子に取りつく前の私が視えてたの?」

 その問いかけに紳士クンが無言でうなずくと、彼女は目を丸くして続けた。

 「へぇ、君は視える人(、、、、)なんだ。

あんまりそういう雰囲気じゃないのに、ちょっと意外ね」

 「ぼ、僕自身も、幽霊が視えるなんて知りませんでした。

あ、あなたは本当に幽霊で、今、華子さんに取りついているんですか?」

 「本当も何も、君が視た通りだよ。

私はこの教会でさまよう、君達で言う所の幽霊なの。

名前は()()(うれ)()。これでも昔はこの学園の生徒だったのよ?」

 「た、確かに、幽霊の姿の時も、この学園の制服を着ていましたもんね。

でも、どうして彼女、華子さんに取りついたりしたんですか?」

 「だってこの子、幽霊を呼び出す儀式をしてたんでしょう?

別にこの儀式自体にそんな力はないけど、ちょうど退屈してたし、

いっそこの子に取りついてやろうと思った訳よ。

いや~、やっぱり生身の体はいいわねぇ。

ちゃんと足があるし、生きてるって感じがするもの」

 そう言って両手で自分の体を抱きしめる愁衣。

そんな愁衣を眺めながら、紳士クンは顔を引きつらせながら尋ねる。

 「あ、あの、愁衣さんは、どうしてここで幽霊をしているんですか?

やっぱり昔、ここで不幸な死をとげたんですか?」

 すると愁衣は一転して悲しげな顔をして、祭壇の聖母様を眺めながら言った。

 「そうなの。私がここで幽霊をしているのには、

それはそれは深く、悲しい理由があるのよ」

 「も、もしよければ、僕に話してもらえませんか?

何か力になれる事があるかもしれませんし」

 紳士クンは親切心からではなく、そうすればこの幽霊が成仏し、

華子の体から出て行ってくれるのではないかと考えたのだ。

するとそれを知ってか知らずか、愁衣は悲しみに暮れた口調で言った。



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