16 取りつかれてしもうた
(な、何か、随分イタズラ好きの幽霊だなぁ・・・・・・)
そう思いながら、紳士クンはどうしたものかと途方に暮れていた。
どうやら華子に幽霊の姿は見えていないようだが、
このまま幽霊のイタズラをほっておいていいものかとも思う。
そんな中当の幽霊は何かを思いついたようにニヤリと笑い、
華子の背後に立ちはだかった(足が無いので『立つ』というのもおかしな話だが)。
一方の華子は呪文が終わりに近付いているらしく、
組んだ両手を頭の上にかざし、大声で叫んだ。
「迷える子羊の魂を、この杯の元へ導きたまえ!」
その瞬間、足のない乙女の体が薄くぼやけ、そのまま華子に近付いて行く。
「あ、危ない華子さん!」
咄嗟に紳士クンはそう叫んだが時すでに遅く、
足のない乙女は華子に重なるように消えた。
そして華子はそのまま意識を失ったらしく、ガクンとその場に倒れ込んだ。
「華子さん!」
紳士クンは華子の元に駆け寄り、上半身を抱き上げて二、三度揺さぶってみる。
が、完全に意識を失っているらしい華子は、
目を閉じたままピクリとも動かなかった。
(どどどどうしよう⁉華子さん、幽霊に取りつかれちゃったの⁉)
ありえない現実をいっぺんに目の当たりにし、
紳士クンの頭は完全にパニックになっていた。
幽霊に取りつかれて気を失った人への対処法など、
紳士クンは知る由もなかったのだ。
と、そんな中、気を失っていた華子が突然パチッと眼を開いた。
そしてガバッと起き上がり、両手を眺め、握ったり開いたりする。
更にすっくと立ち上がり、その場でピョンピョン飛び跳ねたり、
クルッと一回転した後、
たった今紳士クンに気がついたという様子で紳士クンの方へ振り向いた。
「あ、あの・・・・・・」
目の前に居る彼女が華子なのかわからない紳士クンは、
それ以上言葉が出てこなかった。
それに対して目の前の彼女は、怪しい微笑みを浮かべながら口を開いた。
「フッフッフ、残念だけど、今の私(、)は、あなたが知っている私(、)ではないわ」




